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形式的冪級数を用いた実数体の構成法について [数学]

 MathJaxでブログ中に数式が使えることがわかったので、嬉しがって数学の記事を書きます。

 素人なのですが趣味で数学を勉強してまして、最近、公理的集合論とか強制法とかいったあたりをようやく理解しかかったところです。

 そこで、練習問題みたいなノリで、実数体の構成法の一例などをMathJaxを利用して記述してみたいと思います。
 整数係数の形式的冪級数環を利用した構成法で、あまり参考書などでは見ることがない方法かと思います。

 $\mathbb{N}$ を 0 を含む自然数の全体、$\mathbb{Z}$ を整数環(有理整数環)とし、これらの性質は既知とします。有理数体 $\mathbb{Q}$ の知識は使用しません。
 $X$ を不定元として $\mathbb{Z}$ 係数の形式的冪級数環 $\mathbb{Z}[[X]]$ を考えます。$\mathbb{Z}[[X]]$ の元は太字で表し、$\boldsymbol{a} \in \mathbb{Z}[[X]]$ に対して $X^{i}$ の係数を同じ文字の細字を用いて $a_i$ とかくと約束します。つまり
\[ \boldsymbol{a}=\sum_{i=0}^{\infty} a_{i} X^{i} \quad \text{ただし} \quad \forall i \in \mathbb{N} \, ( a_{i} \in \mathbb{Z} ) \]
です。このとき $\boldsymbol{a} \in \mathbb{Z}[[X]], \, \boldsymbol{b} \in \mathbb{Z}[[X]]$ に対してそれらの和と積は次のようになります。
\[ \boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}=\sum_{i=0}^{\infty}(a_{i}+b_{i})X^{i}, \quad \boldsymbol{a} \boldsymbol{b}=\sum_{i=0}^{\infty} ( \sum_{j=0}^{i} a_{j}b_{i-j} ) X^{i} \]
手順1 $\mathbb{Z}[[X]]$ の部分集合 $\mathcal{R}$ を次によって定める。
\[ \mathcal{R}=\{ \, \boldsymbol{a} \mid \boldsymbol{a} \in \mathbb{Z}[[X]] \land \exists M \in \mathbb{N} \, \forall k \in \mathbb{N} \, (\sum_{i=0}^{k} 2^{k-i} |a_{i}| < 2^kM ) \, \}
\]
 $\mathcal{R}$ の条件は、不定元 $X$ に $1/2$ を代入したときに $\boldsymbol{a}$ が無限級数として絶対収束するための条件を係数だけで表したものです。
 このとき、$\mathcal{R}$ は $\mathbb{Z}[[X]]$ の部分環になります。この証明は簡単です。

手順2 $\mathcal{R}$ の部分集合 $\mathcal{P}$ を次によって定める。
\[ \mathcal{P}=\{ \, \boldsymbol{a} \mid \boldsymbol{a} \in \mathcal{R} \land \forall m \in \mathbb{N} \, \exists n \ge m \, \forall k \ge n \, (\sum_{i=0}^{k} 2^{k-i} a_{i} >-2^{k-m} ) \, \} \]
 $\mathcal{P}$ の条件は、不定元 $X$ に $1/2$ を代入したときに $\boldsymbol{a}$ が無限級数として絶対収束して値が非負となるための条件を係数だけで表したものです。
 このとき、$\mathcal{P}$ について次が成り立ちます。
 i) $\boldsymbol{a} \in \mathcal{R} \to \boldsymbol{a} \in \mathcal{P} \lor -\boldsymbol{a} \in \mathcal{P}$
 ii) $\boldsymbol{a} \in \mathcal{P} \land \boldsymbol{b} \in \mathcal{P} \to \boldsymbol{a}+\boldsymbol{b} \in \mathcal{P}$
 iii) $\boldsymbol{a} \in \mathcal{P} \land \boldsymbol{b} \in \mathcal{P} \to \boldsymbol{a} \boldsymbol{b} \in \mathcal{P}$
これも若干長い(特に iii) が長い)ですが、それほど難しくなく証明できます。

手順3 $\mathcal{R}$ の部分集合 $\mathcal{I}$ を次によって定める。
\[ \mathcal{I} = \{ \, \boldsymbol{a} \mid \boldsymbol{a} \in \mathcal{P} \land -\boldsymbol{a} \in \mathcal{P} \, \} \]
 このとき、$\mathcal{I}$ は $\mathcal{R}$ のイデアルになります。すなわち次が成り立ちます。
 i) $\boldsymbol{a} \in \mathcal{I} \land \boldsymbol{b} \in \mathcal{I} \to \boldsymbol{a}+\boldsymbol{b} \in \mathcal{I}$
 ii) $\boldsymbol{a} \in \mathcal{R} \land \boldsymbol{b} \in \mathcal{I} \to \boldsymbol{a} \boldsymbol{b} \in \mathcal{I}$
これは $\mathcal{P}$ についての i) 〜 iii) を使えば証明は簡単です。

 ここまで準備すれば、次によって実数体が定義できます。

手順4 環 $\mathcal{R}$ のイデアル $\mathcal{I}$ による剰余環 $\mathcal{R}/\mathcal{I}$ を $\mathbb{R}$ と定める。さらに
\[ [\boldsymbol{a}] \le [\boldsymbol{b}] \leftrightarrow \boldsymbol{b}-\boldsymbol{a} \in \mathcal{P} \]
によって $\mathbb{R}$ 上の関係 $\le$ を定める。$\mathbb{R}$ の元を実数とよぶ。

 こう定義した $\mathbb{R}$ は、環の一般論によってただちに順序環になることがわかります。さらに、少し手数がかかりますが完備性(空でなく下に有界な部分集合が下限をもつこと)が証明でき、最後に完備性を用いて体であること(乗法逆元の存在)が証明できて、$\mathbb{R}$ が実数体の性質をもつことが確かめられます。

 こんな構成法に何の意味があるのかといわれると辛いですが、一応次の特徴があります。
(1) 有理数体を経由せずに、整数環から直接実数体を構成している。
(2) 原理的には(2進法の)無限小数による構成法であるが、ストレートに無限小数を用いて実数体を定義するよりは相当に簡明である。

 以上の内容を各証明つきでレポート風にまとめたものを、ここにPDFで載せましたので、よければ御笑覧ください。

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