わかってない奴がわかったつもりで書き留める超準解析(その3) [数学]
【超準解析について生半可な知識しかない僕が、わかったつもりの内容をちょっとずつ書き留めていきます。不正確な内容や誤りもあることをご承知ください。】
(3) 極限、連続、一様連続
高校数学では、関数の極限についてこう習ったと思います。
「$a$と異なる$x$が$a$に限りなく近づくならば関数$f$の値$f(x)$が$b$に限りなく近づくことを、$\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ と表す。」
この「限りなく近づく」が数学の定義としてあまりに直感的すぎるいうことで、大学ではいわゆる「$\epsilon - \delta$ 論法」による厳密な極限の定義を習ったわけです。
しかし、超準解析における極限の定義は、この高校数学の直感的な定義をほぼそのまま使うことができます。
ここで${}^*f$は$f$の超準拡大であり、「無限に近い」とは前節で登場した超実数体${}^*\mathbb{R}$における関係$\approx$を意味するので、この定義は数学的に厳密な定義になっています。
では、この定義が $\epsilon - \delta$ 論法による定義と同値であることを証明しましょう。これは以下のように行われます。今後本シリーズを通して正実数の全体を$\mathbb{R}^+$、正超実数の全体を${}^*\mathbb{R}^+$で表すこととしますが、移行原理によって ${}^*(\mathbb{R}^+) = {}^*\mathbb{R}^+$ となることに注意してください。
まず、$\epsilon - \delta$ 論法による定義で $\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ とする。任意に正実数$\epsilon$をとると、ある正実数$\delta$が存在して、
\[ \forall x \in \mathbb{R} \, ( 0< \left| x-a \right| < \delta \to \left| f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立つようにできる。$\epsilon, \delta$を定数とみて移行原理を適用すると、
\[ \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, ( 0< \left| x-a \right| < \delta \to \left| {}^*f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立つ。$\delta$は正実数だから、
\[ \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, ( x \approx a \land x \neq a \to \left| {}^*f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立ち、$\epsilon$は任意の正実数だから、
\[ \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, ( x \approx a \land x \neq a \to {}^*f(x) \approx b ) \]
が成り立つ。従って超準解析における定義でも $\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ である。
次に、超準解析における定義で $\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ とする。任意に正実数$\epsilon$をとると、
\[ \exists \delta \in {}^*\mathbb{R}^+ \, \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, ( 0< \left| x-a \right| < \delta \to \left| {}^*f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立つ。なぜなら$\delta$が正の無限小超実数であればこれをみたすからである。移行原理より、
\[ \exists \delta \in \mathbb{R}^+ \, \forall x \in \mathbb{R} \, ( 0< \left| x-a \right| < \delta \to \left| f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立つが、$\epsilon$が任意の正実数にとれるから、
\[ \forall \epsilon \in \mathbb{R}^+ \, \exists \delta \in \mathbb{R}^+ \, \forall x \in \mathbb{R} \, ( 0< \left| x-a \right| < \delta \to \left| f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立つ。従って $\epsilon - \delta$ 論法による定義でも $\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ である。□
$\epsilon$や$\delta$を定数とみたり変数とみたり都合よく使い分けながら移行原理を用いることで、うまく証明できました。
ここで、超実数$x$に対して$x$の単子(モナド)と呼ばれる
\[ \mathrm{monad}(x) = \{ \, y \in {}^*\mathbb{R} \, \mid \, y \approx x \, \} \]
によって定義される集合を用いると、
\[ \lim_{x \to a} f(x) =b \quad \Leftrightarrow \quad \forall x \in \mathrm{monad}(a) \setminus \{ a \} \, ({}^*f(x) \in \mathrm{monad}(b)) \]
と表すことができます。そしてこのとき、
\[ \lim_{x \to a} f(x) = \mathrm{st}({}^*f(x)) \ \mathrm{for \ all} \ x \in \mathrm{monad}(a) \setminus \{ a \} \]
が成り立ちます。
$x \to +\infty$ のときの極限についても同様に、
\[ \lim_{x \to +\infty} f(x) =b \quad \Leftrightarrow \quad \forall x \in {}^*\mathbb{R}^+_\infty \, ({}^*f(x) \in \mathrm{monad}(b)) \]
によって表せます。ここで ${}^*\mathbb{R}^+_\infty$ は正の無限大超実数の全体を表し、従ってこれは超実数$x$が無限に大きいならば ${}^*f(x)$ が実数$b$に無限に近いことを意味します。そしてこのとき、
\[ \lim_{x \to +\infty} f(x) = \mathrm{st}({}^*f(x)) \ \mathrm{for \ all} \ x \in {}^*\mathbb{R}^+_\infty \]
が成り立ちます。
極限に関する以上の結果から、関数の連続性については、
\begin{eqnarray*}
f \, \text{が} \, a \, \text{で連続} \quad &\Leftrightarrow& \quad \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, (x \approx a \to {}^*f(x) \approx f(a)) \\
\quad &\Leftrightarrow& \quad \forall x \in \mathrm{monad}(a) \, ({}^*f(x) \in \mathrm{monad}(f(a)))
\end{eqnarray*}
と表せます。そしてこのとき、
\[ f(a) = \mathrm{st}({}^*f(x)) \ \mathrm{for \ all} \ x \in \mathrm{monad}(a) \]
が成り立ちます。
さらに、$A$を$\mathbb{R}$の部分集合とするとき、関数の一様連続性について、
\[ f \, \text{が} \, A \, \text{で一様連続} \quad \Leftrightarrow \quad \forall x,y \in {}^*A \, (x \approx y \to {}^*f(x) \approx {}^*f(y)) \]
と表せます。これが通常の $\epsilon - \delta$ 論法による一様連続の定義と同値であることは、極限と同様のやり方で証明できます。
極限、連続性、一様連続性のいずれも、超準解析を用いると非常にシンプルな表現になりますね。
定理の証明もシンプルになることを次の例で示しておきます。
(証明)$A=[a,b]$ とおくと、移行原理より ${}^*A=[a,b]$(${}^*\mathbb{R}$の区間)である。任意に $x,y \in {}^*A \land x \approx y$ となる$x,y$をとると、$z=\mathrm{st}(x)=\mathrm{st}(y)$ となる $z \in A$ がとれて、$f$が$z$で連続だから ${}^*f(x) \approx f(z) \approx {}^*f(y)$ より ${}^*f(x) \approx {}^*f(y)$ である。従って$f$は$A$で一様連続である。□
(続く)(前記事)(目次)
(3) 極限、連続、一様連続
高校数学では、関数の極限についてこう習ったと思います。
「$a$と異なる$x$が$a$に限りなく近づくならば関数$f$の値$f(x)$が$b$に限りなく近づくことを、$\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ と表す。」
この「限りなく近づく」が数学の定義としてあまりに直感的すぎるいうことで、大学ではいわゆる「$\epsilon - \delta$ 論法」による厳密な極限の定義を習ったわけです。
しかし、超準解析における極限の定義は、この高校数学の直感的な定義をほぼそのまま使うことができます。
【極限の定義】
$f : \mathbb{R} \to \mathbb{R}$ とする。実数$a$と異なる超実数$x$が$a$に無限に近いならば ${}^*f(x)$ が実数$b$に無限に近いことを、$\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ と表す。式でかくと次のとおり。
\[ \lim_{x \to a} f(x) =b \quad \Leftrightarrow \quad \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, (x \approx a \land x \neq a \to {}^*f(x) \approx b) \]
ここで${}^*f$は$f$の超準拡大であり、「無限に近い」とは前節で登場した超実数体${}^*\mathbb{R}$における関係$\approx$を意味するので、この定義は数学的に厳密な定義になっています。
では、この定義が $\epsilon - \delta$ 論法による定義と同値であることを証明しましょう。これは以下のように行われます。今後本シリーズを通して正実数の全体を$\mathbb{R}^+$、正超実数の全体を${}^*\mathbb{R}^+$で表すこととしますが、移行原理によって ${}^*(\mathbb{R}^+) = {}^*\mathbb{R}^+$ となることに注意してください。
まず、$\epsilon - \delta$ 論法による定義で $\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ とする。任意に正実数$\epsilon$をとると、ある正実数$\delta$が存在して、
\[ \forall x \in \mathbb{R} \, ( 0< \left| x-a \right| < \delta \to \left| f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立つようにできる。$\epsilon, \delta$を定数とみて移行原理を適用すると、
\[ \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, ( 0< \left| x-a \right| < \delta \to \left| {}^*f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立つ。$\delta$は正実数だから、
\[ \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, ( x \approx a \land x \neq a \to \left| {}^*f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立ち、$\epsilon$は任意の正実数だから、
\[ \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, ( x \approx a \land x \neq a \to {}^*f(x) \approx b ) \]
が成り立つ。従って超準解析における定義でも $\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ である。
次に、超準解析における定義で $\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ とする。任意に正実数$\epsilon$をとると、
\[ \exists \delta \in {}^*\mathbb{R}^+ \, \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, ( 0< \left| x-a \right| < \delta \to \left| {}^*f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立つ。なぜなら$\delta$が正の無限小超実数であればこれをみたすからである。移行原理より、
\[ \exists \delta \in \mathbb{R}^+ \, \forall x \in \mathbb{R} \, ( 0< \left| x-a \right| < \delta \to \left| f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立つが、$\epsilon$が任意の正実数にとれるから、
\[ \forall \epsilon \in \mathbb{R}^+ \, \exists \delta \in \mathbb{R}^+ \, \forall x \in \mathbb{R} \, ( 0< \left| x-a \right| < \delta \to \left| f(x)-b \right| < \epsilon ) \]
が成り立つ。従って $\epsilon - \delta$ 論法による定義でも $\displaystyle \lim_{x \to a} f(x) =b$ である。□
$\epsilon$や$\delta$を定数とみたり変数とみたり都合よく使い分けながら移行原理を用いることで、うまく証明できました。
ここで、超実数$x$に対して$x$の単子(モナド)と呼ばれる
\[ \mathrm{monad}(x) = \{ \, y \in {}^*\mathbb{R} \, \mid \, y \approx x \, \} \]
によって定義される集合を用いると、
\[ \lim_{x \to a} f(x) =b \quad \Leftrightarrow \quad \forall x \in \mathrm{monad}(a) \setminus \{ a \} \, ({}^*f(x) \in \mathrm{monad}(b)) \]
と表すことができます。そしてこのとき、
\[ \lim_{x \to a} f(x) = \mathrm{st}({}^*f(x)) \ \mathrm{for \ all} \ x \in \mathrm{monad}(a) \setminus \{ a \} \]
が成り立ちます。
$x \to +\infty$ のときの極限についても同様に、
\[ \lim_{x \to +\infty} f(x) =b \quad \Leftrightarrow \quad \forall x \in {}^*\mathbb{R}^+_\infty \, ({}^*f(x) \in \mathrm{monad}(b)) \]
によって表せます。ここで ${}^*\mathbb{R}^+_\infty$ は正の無限大超実数の全体を表し、従ってこれは超実数$x$が無限に大きいならば ${}^*f(x)$ が実数$b$に無限に近いことを意味します。そしてこのとき、
\[ \lim_{x \to +\infty} f(x) = \mathrm{st}({}^*f(x)) \ \mathrm{for \ all} \ x \in {}^*\mathbb{R}^+_\infty \]
が成り立ちます。
極限に関する以上の結果から、関数の連続性については、
\begin{eqnarray*}
f \, \text{が} \, a \, \text{で連続} \quad &\Leftrightarrow& \quad \forall x \in {}^*\mathbb{R} \, (x \approx a \to {}^*f(x) \approx f(a)) \\
\quad &\Leftrightarrow& \quad \forall x \in \mathrm{monad}(a) \, ({}^*f(x) \in \mathrm{monad}(f(a)))
\end{eqnarray*}
と表せます。そしてこのとき、
\[ f(a) = \mathrm{st}({}^*f(x)) \ \mathrm{for \ all} \ x \in \mathrm{monad}(a) \]
が成り立ちます。
さらに、$A$を$\mathbb{R}$の部分集合とするとき、関数の一様連続性について、
\[ f \, \text{が} \, A \, \text{で一様連続} \quad \Leftrightarrow \quad \forall x,y \in {}^*A \, (x \approx y \to {}^*f(x) \approx {}^*f(y)) \]
と表せます。これが通常の $\epsilon - \delta$ 論法による一様連続の定義と同値であることは、極限と同様のやり方で証明できます。
極限、連続性、一様連続性のいずれも、超準解析を用いると非常にシンプルな表現になりますね。
定理の証明もシンプルになることを次の例で示しておきます。
【定理】$f$を$\mathbb{R}$の有界閉区間 $[a,b]$ から$\mathbb{R}$への連続関数とすると、$f$はこの区間上で一様連続である。
(証明)$A=[a,b]$ とおくと、移行原理より ${}^*A=[a,b]$(${}^*\mathbb{R}$の区間)である。任意に $x,y \in {}^*A \land x \approx y$ となる$x,y$をとると、$z=\mathrm{st}(x)=\mathrm{st}(y)$ となる $z \in A$ がとれて、$f$が$z$で連続だから ${}^*f(x) \approx f(z) \approx {}^*f(y)$ より ${}^*f(x) \approx {}^*f(y)$ である。従って$f$は$A$で一様連続である。□
(続く)(前記事)(目次)
コメント 0