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わかってない奴がわかったつもりで書き留める超準解析(その6) [数学]

【超準解析について生半可な知識しかない僕が、わかったつもりの内容をちょっとずつ書き留めていきます。不正確な内容や誤りもあることをご承知ください。】

(6) 超冪による超準モデルの構成

 本シリーズの第1回目で、「無限集合を領域にもつどんなモデルにもそれを真に拡大する超準モデルが存在する」と書きました。遅ればせながらここでその超準モデルの作り方を紹介しておきます。
 とはいえ、ここで書く超冪による構成法は、超準解析を解説するテキストならばどこでも書かれている内容なので、証明などは省略して大いに端折り、流れだけを書くこととします。

 無限集合$X$を領域とするある数学モデルがあり(以下標準モデル$X$とよぶ)、それを拡大した超準モデル${}^*X$を作りたいとします。この目的のため、($X$と無関係に)ある無限集合$I$と、$I$上の超フィルター $\mathcal{F}$ を用意します。ここで $\mathcal{F}$ が$I$上の超フィルターであるとは、$I$の部分集合を要素にもつ空でない集合で次の4条件をみたすことをいいます。

  ① $A \in \mathcal{F} \land A \subseteq B \subseteq I \to B \in \mathcal{F}$
  ② $A \in \mathcal{F} \land B \in \mathcal{F} \to A \cap B \in \mathcal{F}$
  ③ $\emptyset \notin \mathcal{F}$
  ④ $A \subseteq I \to A \in \mathcal{F} \lor I \setminus A \in \mathcal{F}$

①〜③だけをみたすものは単にフィルターといいます。ツォルンの補題を用いると、任意のフィルターにはそれを拡大する超フィルターが存在することが示されます。

 次に、$I$から$X$への関数の全体 ${}^IX$ を考え、この上に次で定める同値関係 $\sim_{\mathcal{F}}$ を考えます。$\boldsymbol{x},\boldsymbol{y} \in {}^IX$として、
\[ \boldsymbol{x} \sim_{\mathcal{F}} \boldsymbol{y} \quad \Leftrightarrow \quad \{ \, i \in I \mid \boldsymbol{x}(i) = \boldsymbol{y}(i) \, \} \in \mathcal{F} \]
つまり、超フィルター $\mathcal{F}$ に関して$I$上ほとんど至る所等しいという関係を $\sim_{\mathcal{F}}$ と定めます。これが同値関係になることはフィルターの性質から容易にわかります。そこで ${}^IX$ を $\sim_{\mathcal{F}}$ で割った商集合 ${}^IX / \sim_{\mathcal{F}}$ を($I, \mathcal{F}$から得られる)$X$の超冪といいます。

 この超冪が$X$の超準モデルになることを説明します。そのためちょっと前のめりですが ${}^IX / \sim_{\mathcal{F}}$ のことを${}^*X$と書くこととします。

 $X$上の$k$項関係 $R \, (\subseteq X^k)$ を考えます。$R$は次によって${}^*X$上の$k$項関係${}^*R$に写すことができます。$\boldsymbol{x}_1, \boldsymbol{x}_2, \cdots \boldsymbol{x}_k \in {}^IX$ とするとき$\boldsymbol{x}$が属する同値類を $[ \boldsymbol{x} ]$ として、
\[ {}^*R([\boldsymbol{x}_1], [\boldsymbol{x}_2], \cdots , [\boldsymbol{x}_k] ) \quad \Leftrightarrow \quad \{ \, i \in I \mid R(\boldsymbol{x}_1(i), \boldsymbol{x}_2(i), \cdots , \boldsymbol{x}_k(i) ) \, \} \in \mathcal{F} \]
によって$k$項関係${}^*R$を定めます。つまり、超フィルター $\mathcal{F}$ に関して$I$上ほとんど至る所$R$が成り立つとき${}^*R$が成り立つとします。
 このようにして$X$上のあらゆる関係は${}^*X$上の関係に同様に写すことができます。このとき移行原理とよばれる次の定理が成り立ちます。

【定理1】$X$上の$n$個の関係 $R_1, R_2, \cdots R_n$ を含む一階の閉論理式が$X$上で真ならば、それらの関係を ${}^*R_1, {}^*R_2, \cdots {}^*R_n$ で置き換えた一階の閉論理式は${}^*X$上で真であり、またその逆も成り立つ。

この証明はウォシュ(Łoś)の定理を用いてなされますが、長くなるのとあちこちに書かれていますので省略します。これによって、$X$上で成り立つ一階の性質がすべて${}^*X$に受け継がれることになります。

 さらに、$X$は次の対応によって${}^*X$に埋め込むことができます。
\[ x \longmapsto [ \{ \, \langle i,x \rangle \mid i \in I \, \} ] \]
つまり $x \in X$ に対して値が常に $\boldsymbol{c}_x(i) = x$ となる定数関数 $\boldsymbol{c}_x \in {}^IX$ を考え、$x$と $[ \boldsymbol{c}_x ]$ を同一視して $X \subseteq {}^*X$ とみなします。このとき${}^*X$が$X$の真の拡大となるならば、この${}^*X$を標準モデル$X$に対する超準モデルということができますが、そうなるためには$I$と超フィルター $\mathcal{F}$ にちょっとした条件が必要です。

【定理2】上の同一視において${}^*X$が$X$の真の拡大となるための必要十分条件は、$X$の濃度を$\kappa$としたとき$I$の$\kappa$個の直和分割 $I = \bigsqcup_{\alpha < \kappa}I_\alpha$ で、 \[ \forall \alpha < \kappa \, (I_\alpha \notin \mathcal{F}) \] をみたすものが存在することである(このとき $I_\alpha = \emptyset$ となるものがあってもよい)。

(証明)$X$を整列して $X = \{ \, x_\alpha \mid \alpha < \kappa \, \}$ としておく。$X \neq {}^*X$ と仮定すると、$[\boldsymbol{a}] \in {}^*X \setminus X$ となる $\boldsymbol{a} \in {}^IX$ が存在するから、
\[ I_\alpha = \{ \, i \in I \mid \boldsymbol{a}(i) = x_\alpha \, \} \]
とおくと $I = \bigsqcup_{\alpha < \kappa}I_\alpha$ であって、かつ任意の $\alpha < \kappa$ について $[\boldsymbol{a}] \neq x_\alpha$ より $I_\alpha \notin \mathcal{F}$ となる。
 逆に、このような$I$の直和分割 $I = \bigsqcup_{\alpha < \kappa}I_\alpha$ が存在するならば、
\[ \forall i \in I (i \in I_\alpha \to \boldsymbol{a}(i) = x_\alpha) \]
となるように $\boldsymbol{a} \in {}^IX$ をとると、$[\boldsymbol{a}] \in {}^*X \setminus X$ が成り立つ。□

 これから、つぎの簡単な十分条件が得られます。

【定理3】$\mathcal{F}$ が非単項フィルター、かつ$X,I$の濃度について $\lvert I \rvert \le \lvert X \rvert$ ならば、${}^*X$は$X$の真の拡大である。

 ここで非単項フィルターとは、どの $i \in I$ に対しても $\{ i \}$ を要素にもたないフィルターのことをいいます。無限集合$I$上に非単項な超フィルターが存在することは、$I$の有限部分集合の補集合の全体で作られるフィルター(フレシェ・フィルター)を考えると、それを拡大する超フィルターが存在することからわかります。

(証明)$\lvert X \rvert = \kappa , \, \lvert I \rvert = \lambda$ とおく。$\mathcal{F}$ が非単項で $\lambda \le \kappa$ ならば、$I$を整列して $I = \{ \, i_\alpha \mid \alpha < \lambda \, \}$ とすると、
\[ I_\alpha = \{ \, i_\alpha \, \} \quad ( \alpha < \lambda) \\
I_\alpha = \emptyset \quad ( \lambda \le \alpha < \kappa) \]
によって定まる$I$の直和分割は、$\mathcal{F}$ が非単項だから【定理2】の条件をみたす。□

 この十分条件によって、$X$が無限集合ならば $I = \omega \, ( = \mathbb{N})$ とすれば超準モデル${}^*X$が構成できることがわかります。

 以上で「無限集合を領域にもつどんなモデルにもそれを真に拡大する超準モデルが存在する」ことを、超冪による構成法によって示すことができました。このことを示すためだけなら初めから $I = \omega$ としてしまう方が理解しやすいのですが、ここでは後々のために$I$を一般化しておきました。

(続く)(前記事)(目次)

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