わかってない奴がわかったつもりで書き留める超準解析(その7) [数学]
【超準解析について生半可な知識しかない僕が、わかったつもりの内容をちょっとずつ書き留めていきます。不正確な内容や誤りもあることをご承知ください。】
(7) 距離空間の超準モデル
実数体$\mathbb{R}$の超準モデルとして超実数体${}^*\mathbb{R}$を考えると、無限大や無限小が「数」として扱え、連続性や微分といった概念がシンプルに表現できることをみてきました。ここからは対象を少し一般化して、距離空間に対する超準モデルを考えることにします。
距離空間は周知のとおり、集合$X$と距離関数と呼ばれる $d:X^2 \to \mathbb{R}$ の組 $\langle X,d \rangle$ で、$d$が次の3条件をみたすもののことをいいます。
① $\forall x,y \in X \, (d(x,y) \ge 0 \land (d(x,y) =0 \leftrightarrow x=y))$
② $\forall x,y \in X \, (d(x,y) = d(y,x))$
③ $\forall x,y,z \in X \, (d(x,z) \le d(x,y) + d(y,z))$
超準モデルを考えたいのですから、$X$は無限集合とします。$Y=X \cup \mathbb{R}$ とおくと、この$Y$の超準拡大${}^*Y$がとれて ${}^*Y={}^*X \cup {}^*\mathbb{R}$ となり、$Y$上の2変数関数$d$も超準拡大${}^*d$がとれて、移行原理より ${}^*d:{}^*X^2 \to {}^*\mathbb{R}$ となり、さらに${}^*d$は次の3条件をみたします。
① $\forall x,y \in {}^*X \, ({}^*d(x,y) \ge 0 \land ({}^*d(x,y) =0 \leftrightarrow x=y))$
② $\forall x,y \in {}^*X \, ({}^*d(x,y) = {}^*d(y,x))$
③ $\forall x,y,z \in {}^*X \, ({}^*d(x,z) \le {}^*d(x,y) + {}^*d(y,z))$
こうして作った距離空間 $\langle X,d \rangle$ の超準モデル $\langle {}^*X,{}^*d \rangle$ を「超準距離空間」とでも呼びたいところですが、そんな用語を勝手に決めてよいのかどうか私にはわかりませんので、ここでは超準モデルという呼び方で統一することにします。
さてこれも周知のことですが、距離空間にはよく知られた方法で開集合が定義され、位相空間となります。距離空間における位相の各概念を超準モデルを使ってシンプルに表すのが今回の主目的です。
実は今回の内容はほとんど、距離空間に限らない一般の位相空間で成り立つ内容です。あえて一般化せずに距離空間だけを扱うのは、距離空間においてはある程度まで移行原理だけで議論を進めることができるということが理由になります。一般の位相空間では超準モデルに「広大性」と呼ばれる性質を仮定して議論を進める必要があり、これは超準解析では基本的な性質なのですが少し込み入った内容になります。距離空間だとこれから示すように、実数空間の延長のような考え方で話を進めることができます。
さて、以下距離空間 $\langle X,d \rangle$ とその超準モデル $\langle {}^*X,{}^*d \rangle$ を対象にします。$X, {}^*X$ の元は慣習に従って点と呼びます。${}^*\mathbb{R}$と同じように次の各概念が定義できます。
・${}^*X$の点$a$に対し、$X$の点$b$が存在して ${}^*d(a,b)$ が(超実数として)有限のとき、$a$を有限点という。
有限でないとき無限点という。
・${}^*X$の点$a,b$が ${}^*d(a,b) \approx 0$ のとき、$a$と$b$は無限に近いといい、$a \approx b$ で表す。これは同値関係である。
・${}^*X$の点$a$ に対し、$a \approx b$ をみたす$X$の点$b$が存在するとき、$a$を近標準点という。
このとき点$b$は唯一なのでそれを$a$の標準部分といい、$\mathrm{st}(a)$ で表す。
・${}^*X$の点$a$ に対し、$\{ \, x \in {}^*X \mid x \approx a \, \}$ を$a$の単子(モナド)といい、$\mathrm{monad}(a)$ で表す。
距離空間は多様なので、超準モデルに無限点のない距離空間もあるし、また一般に$a$が有限点でも近標準点とは限らないし、$\mathrm{monad}(a)$ が $\{ a \}$ と一致する場合もあったりします。
任意の$X$の部分集合$A$は超準拡大${}^*A$がとれて ${}^*A \subseteq {}^*X$ となります。まず簡単な結果を示しておきましょう。
(証明)$A$が空ならば${}^*A$も空なので自明。以下$A$は空でないとする。
$A$が有界とする。$A$の点$a$をとって固定すると、ある正実数$M$に対して
\[ \forall x \in A \, (d(x,a) \le M) \]
であるから、移行原理より
\[ \forall x \in {}^*A \, ({}^*d(x,a) \le M) \]
となる。よって${}^*A$の点はすべて有限点である。
逆に${}^*A$の点がすべて有限点とする。ある$A$の点$a$に対して
\[ \exists M \in {}^*\mathbb{R}^+ \, \forall x \in {}^*A \, ({}^*d(x,a) \le M) \]
が成り立つ(Mを正の無限大にとればよい)から、移行原理より
\[ \exists M \in \mathbb{R}^+ \, \forall x \in A \, (d(x,a) \le M) \]
となる。よって$A$は有界である。□
次の結果が今回の基本になります。
(証明)$a$が$A$の内点とすると、ある正実数$\delta$が存在して
\[ \forall x \in X \, (d(x,a)< \delta \to x \in A) \]
が成り立つようにできる。移行原理より
\[ \forall x \in {}^*X \, ({}^*d(x,a)< \delta \to x \in {}^*A) \]
となり、$\delta$は正実数だから$(1)$が成り立つ。
逆に$(1)$が成り立つとすると、
\[ \exists \delta \in {}^*\mathbb{R}^+ \, \forall x \in {}^*X \, ({}^*d(x,a) < \delta \to x \in {}^*A) \]
が成り立つ($\delta$を正の無限小にとればよい)から、移行原理より
\[ \exists \delta \in \mathbb{R}^+ \, \forall x \in X \, (d(x,a) < \delta \to x \in A) \]
となり、$a$は$A$の内点である。□
これを元にして、簡単な考察により次々と位相的な概念に対する超準モデル上の同値条件が導かれます。結果を次表にまとめてみました。
これらの同値条件を用いることによって、例えば、
「自己稠密空間の開部分集合は自己稠密である」
という定理を、論理式の組み合わせだけで簡単に証明することができます。
(続く)(前記事)(目次)
(7) 距離空間の超準モデル
実数体$\mathbb{R}$の超準モデルとして超実数体${}^*\mathbb{R}$を考えると、無限大や無限小が「数」として扱え、連続性や微分といった概念がシンプルに表現できることをみてきました。ここからは対象を少し一般化して、距離空間に対する超準モデルを考えることにします。
距離空間は周知のとおり、集合$X$と距離関数と呼ばれる $d:X^2 \to \mathbb{R}$ の組 $\langle X,d \rangle$ で、$d$が次の3条件をみたすもののことをいいます。
① $\forall x,y \in X \, (d(x,y) \ge 0 \land (d(x,y) =0 \leftrightarrow x=y))$
② $\forall x,y \in X \, (d(x,y) = d(y,x))$
③ $\forall x,y,z \in X \, (d(x,z) \le d(x,y) + d(y,z))$
超準モデルを考えたいのですから、$X$は無限集合とします。$Y=X \cup \mathbb{R}$ とおくと、この$Y$の超準拡大${}^*Y$がとれて ${}^*Y={}^*X \cup {}^*\mathbb{R}$ となり、$Y$上の2変数関数$d$も超準拡大${}^*d$がとれて、移行原理より ${}^*d:{}^*X^2 \to {}^*\mathbb{R}$ となり、さらに${}^*d$は次の3条件をみたします。
① $\forall x,y \in {}^*X \, ({}^*d(x,y) \ge 0 \land ({}^*d(x,y) =0 \leftrightarrow x=y))$
② $\forall x,y \in {}^*X \, ({}^*d(x,y) = {}^*d(y,x))$
③ $\forall x,y,z \in {}^*X \, ({}^*d(x,z) \le {}^*d(x,y) + {}^*d(y,z))$
こうして作った距離空間 $\langle X,d \rangle$ の超準モデル $\langle {}^*X,{}^*d \rangle$ を「超準距離空間」とでも呼びたいところですが、そんな用語を勝手に決めてよいのかどうか私にはわかりませんので、ここでは超準モデルという呼び方で統一することにします。
さてこれも周知のことですが、距離空間にはよく知られた方法で開集合が定義され、位相空間となります。距離空間における位相の各概念を超準モデルを使ってシンプルに表すのが今回の主目的です。
実は今回の内容はほとんど、距離空間に限らない一般の位相空間で成り立つ内容です。あえて一般化せずに距離空間だけを扱うのは、距離空間においてはある程度まで移行原理だけで議論を進めることができるということが理由になります。一般の位相空間では超準モデルに「広大性」と呼ばれる性質を仮定して議論を進める必要があり、これは超準解析では基本的な性質なのですが少し込み入った内容になります。距離空間だとこれから示すように、実数空間の延長のような考え方で話を進めることができます。
さて、以下距離空間 $\langle X,d \rangle$ とその超準モデル $\langle {}^*X,{}^*d \rangle$ を対象にします。$X, {}^*X$ の元は慣習に従って点と呼びます。${}^*\mathbb{R}$と同じように次の各概念が定義できます。
・${}^*X$の点$a$に対し、$X$の点$b$が存在して ${}^*d(a,b)$ が(超実数として)有限のとき、$a$を有限点という。
有限でないとき無限点という。
・${}^*X$の点$a,b$が ${}^*d(a,b) \approx 0$ のとき、$a$と$b$は無限に近いといい、$a \approx b$ で表す。これは同値関係である。
・${}^*X$の点$a$ に対し、$a \approx b$ をみたす$X$の点$b$が存在するとき、$a$を近標準点という。
このとき点$b$は唯一なのでそれを$a$の標準部分といい、$\mathrm{st}(a)$ で表す。
・${}^*X$の点$a$ に対し、$\{ \, x \in {}^*X \mid x \approx a \, \}$ を$a$の単子(モナド)といい、$\mathrm{monad}(a)$ で表す。
距離空間は多様なので、超準モデルに無限点のない距離空間もあるし、また一般に$a$が有限点でも近標準点とは限らないし、$\mathrm{monad}(a)$ が $\{ a \}$ と一致する場合もあったりします。
任意の$X$の部分集合$A$は超準拡大${}^*A$がとれて ${}^*A \subseteq {}^*X$ となります。まず簡単な結果を示しておきましょう。
【定理1】$A \subseteq X$ に対し、$A$が有界であることと、${}^*A$の点がすべて有限点であることは同値である。
(証明)$A$が空ならば${}^*A$も空なので自明。以下$A$は空でないとする。
$A$が有界とする。$A$の点$a$をとって固定すると、ある正実数$M$に対して
\[ \forall x \in A \, (d(x,a) \le M) \]
であるから、移行原理より
\[ \forall x \in {}^*A \, ({}^*d(x,a) \le M) \]
となる。よって${}^*A$の点はすべて有限点である。
逆に${}^*A$の点がすべて有限点とする。ある$A$の点$a$に対して
\[ \exists M \in {}^*\mathbb{R}^+ \, \forall x \in {}^*A \, ({}^*d(x,a) \le M) \]
が成り立つ(Mを正の無限大にとればよい)から、移行原理より
\[ \exists M \in \mathbb{R}^+ \, \forall x \in A \, (d(x,a) \le M) \]
となる。よって$A$は有界である。□
次の結果が今回の基本になります。
【定理2】$A \subseteq X$ に対し、$X$の点$a$が$A$の内点(=$A$が$a$の近傍)であることと、
\[ \forall x \in {}^*X \, (x \approx a \to x \in {}^*A) \tag{1} \]
すなわち
\[ \mathrm{monad}(a) \subseteq {}^*A \]
が成り立つことは同値である。
(証明)$a$が$A$の内点とすると、ある正実数$\delta$が存在して
\[ \forall x \in X \, (d(x,a)< \delta \to x \in A) \]
が成り立つようにできる。移行原理より
\[ \forall x \in {}^*X \, ({}^*d(x,a)< \delta \to x \in {}^*A) \]
となり、$\delta$は正実数だから$(1)$が成り立つ。
逆に$(1)$が成り立つとすると、
\[ \exists \delta \in {}^*\mathbb{R}^+ \, \forall x \in {}^*X \, ({}^*d(x,a) < \delta \to x \in {}^*A) \]
が成り立つ($\delta$を正の無限小にとればよい)から、移行原理より
\[ \exists \delta \in \mathbb{R}^+ \, \forall x \in X \, (d(x,a) < \delta \to x \in A) \]
となり、$a$は$A$の内点である。□
これを元にして、簡単な考察により次々と位相的な概念に対する超準モデル上の同値条件が導かれます。結果を次表にまとめてみました。
位相的概念 | 超準モデル上の同値条件 | |
---|---|---|
$a$が$A$の内点 | $\forall x \, (x \approx a \to x \in {}^*A)$ | $\mathrm{monad}(a) \subseteq {}^*A$ |
$A$が開集合 | $\forall x \in A \, \forall y \, (y \approx x \to y \in {}^*A)$ | $\forall x \in A \, (\mathrm{monad}(x) \subseteq {}^*A)$ |
$a$が$A$の触点 | $\exists x \, (x \approx a \land x \in {}^*A)$ | $\mathrm{monad}(a) \cap {}^*A \neq \emptyset$ |
$A$が閉集合 | $\forall x \in X \, (\exists y \, (y \approx x \land y \in {}^*A) \to x \in A)$ | $\forall x \in X \, (\mathrm{monad}(x) \cap {}^*A \neq \emptyset \to x \in A)$ |
$a$が$A$の境界点 | $\exists x \, (x \approx a \land x \in {}^*A) \land \exists x \, (x \approx a \land x \notin {}^*A)$ | $\mathrm{monad}(a) \cap {}^*A \neq \emptyset \land \mathrm{monad}(a) \cap ({}^*X \setminus {}^*A) \neq \emptyset$ |
$a$が$A$の集積点 | $\exists x \, (x \approx a \land x \in {}^*A \land x \neq a)$ | $(\mathrm{monad}(a) \cap {}^*A) \setminus \{a\} \neq \emptyset$ |
$a$が$A$の孤立点 | $\forall x \, (x \approx a \land x \in {}^*A \leftrightarrow x=a)$ | $\mathrm{monad}(a) \cap {}^*A = \{ a \}$ |
$A$が自己稠密 | $\forall x \in A \, \exists y \, (y \approx x \land y \in {}^*A \land y \neq x)$ | $\forall x \in A \, ((\mathrm{monad}(x) \cap {}^*A) \setminus \{x\} \neq \emptyset)$ |
$A$が$X$において稠密 | $\forall x \in X \, \exists y \, (y \approx x \land y \in {}^*A)$ | $\forall x \in X \, (\mathrm{monad}(x) \cap {}^*A \neq \emptyset)$ |
$\forall x \in {}^*X \, \exists y \, (y \approx x \land y \in {}^*A)$ | $\forall x \in {}^*X \, (\mathrm{monad}(x) \cap {}^*A \neq \emptyset)$ |
これらの同値条件を用いることによって、例えば、
「自己稠密空間の開部分集合は自己稠密である」
という定理を、論理式の組み合わせだけで簡単に証明することができます。
(続く)(前記事)(目次)
2019-03-03 15:01
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コメント(2)
「距離空間においては移行原理だけで議論を進めることができる」とありますが、実際には可算広大性を部分的に使っています。この記事中の定理を示すには「非零無限小の存在」があれば十分ですが、もう少し深い定理、例えばアスコリ・アルツェラの定理には可算飽和性が必要です。
by お名前(必須) (2019-03-04 03:01)
ご指摘ありがとうございます。取り急ぎご指摘の箇所に「ある程度まで」という一言を入れました。少しずつ理解できた内容から書き留めていますので、稚拙な記述が大いにあろうかと思いますがご容赦ください。アスコリ・アルツェラの定理についてはデービスの本に証明がありましたので確認してみます。
by ロイロット博士 (2019-03-04 15:28)