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わかってない奴がわかったつもりで書き留める超準解析(その12) [数学]

【超準解析について生半可な知識しかない僕が、わかったつもりの内容をちょっとずつ書き留めていきます。不正確な内容や誤りもあることをご承知ください。】

(12) 絶対値をもつ可換環の完備化(p進数体の構成など)

 前回の記事で超準モデルを使った距離空間の完備化について紹介しましたが、この方法を使って有理数体$\mathbb{Q}$から$p$進距離について完備化すると$p$進数体 $\mathbb{Q}_p$ が構成できます($p$は素数)。ただし体演算についても $\mathbb{Q}_p$ へ拡張しなければいけませんので、どうせなら演算も含めて一気に完備化を構成する方法があれば楽です。今回はそれを紹介しますが、完備化の対象は$\mathbb{Q}$だけでなく可換環(実質的には整域)まで一般化します。

 $S$を可換環とし、絶対値とよぶ関数 $\left| * \right| : S \to \mathbb{R}$ が定まって、次の性質をもつとします。

[絶対値の性質]
 ① $\left| x \right| \ge 0 \land ( \left| x \right| = 0 \leftrightarrow x = 0 )$
 ② $\left| xy \right| = \left| x \right| \left| y \right|$
 ③ $\left| x+y \right| \le \left| x \right| + \left| y \right|$

①と②より$S$は必然的に整域になります。また $\left| 1 \right| = \left| -1 \right| =1, \ \left| -x \right| = \left| x \right|$ が成り立ち、$S$が体ならば $x \neq 0 \to \left| 1/x \right| = 1/ \left| x \right|$ も成り立ちます。

 例えば$S$が$\mathbb{Z}, \mathbb{Q}, \mathbb{R}, \mathbb{C}$のとき、通常の絶対値(ここでは $\left| * \right|_\infty$ とかきます)はこの性質をみたします。また任意の整域に対して $\left| 0 \right|_0 = 0$ かつ $x \neq 0 \to \left| x \right|_0 = 1$ で定まる $\left| * \right|_0$ もこの性質をみたします。$S$が$\mathbb{Q}$のときの素数$p$に関する$p$進絶対値 $\left| * \right|_p$ もこの性質をみたすことはよく知られたとおりです。

 $d_S(x,y) = \left| x-y \right|$ と定めると、$\langle S, d_S \rangle$ は距離空間になります。

 以下$S$は無限集合とし、$S$の超準モデル${}^*S$を考えます。 移行原理より${}^*S$も可換環で、$S$の絶対値の超準拡大として${}^*S$の絶対値が定まり、性質①〜③が同様に成り立ちます(ここでは${}^*S$の絶対値も同じ絶対値記号を用いますが、値は一般に超実数になります)。

 ここで、次の2つの${}^*S$の部分集合を考えます。$\mathbb{R}^+$は正実数の全体とします。

\[ \hat{S} = \{ \, x \in {}^*S \, \mid \, \forall \epsilon \in \mathbb{R}^+ \, \exists y \in S \, (\left| x-y \right| < \epsilon) \, \} \\
I_S = \{ \, x \in {}^*S \, \mid \, \left| x \right| \approx 0 \, \} \]
$\hat{S}$は前回の距離空間の完備化の構成で登場した$\hat{X}$と同じです(この条件には pre-near-standard という用語があるそうです。日本語の訳語は知識不足で知りません)。また$I_S$は距離$d_S$に関する $\mathrm{monad}(0)$ のことです。以下の記述を簡単にするためにここではこれらの勝手な記号を使います。

 以下の各補題は絶対値の性質から簡単に得られます(証明省略)。

【補題1】$a \in \hat{S}$ ならば $\left| a \right|$ は有限超実数である。

【補題2】$\hat{S}$は${}^*S$の部分環である。

【補題3】$I_S$は$\hat{S}$のイデアルである。

 これらの補題から次の結果が得られます。

【定理4】可換環$S$から上記の$\hat{S}, I_S$を用いて剰余環 $T = \hat{S} / I_S$ をつくり、関数 $\left| * \right| : T \to \mathbb{R}$を \[ \left| \, [x] \, \right| = \mathrm{st}( \left| x \right| ) \quad (x \in \hat{S}) \] で定めると、これは絶対値の性質をみたし、これから誘導される距離に関して$T$は$S$の完備化となる。

(証明)【補題1】より $[x] \in T$ ならば $\left| x \right|$ は有限だから、$T$の絶対値の定義は実数値として値をもつ。$[x]=[y]$ ならば $x-y \in I_S$ すなわち $\left| x-y \right| \approx 0$ で、かつ
\[ - \left| x-y \right| \le \left| x \right| - \left| y \right| \le \left| x-y \right| \]
だから $\left| x \right| \approx \left| y \right|$ であり、従って$T$の絶対値は代表元によらず正しく定義されている。${}^*S$の絶対値が性質①〜③をみたすことから$T$の絶対値も明らかに①〜③をみたす。これから誘導される距離について、
\[ d_T([x],[y]) = \left| \, [x]-[y] \, \right| = \left| \, [x-y] \, \right| = \mathrm{st}( \left| x-y \right| ) = \mathrm{st}( {}^*d_S(x,y) ) \]
であるから、第11回の結果より $\langle T,d_T \rangle$ は $\langle S,d_S \rangle$ の距離空間としての完備化である。□

 さらに、$S$が体の場合はこの方法で得られた剰余環$T$も体になります。順を追って証明してみます。

【補題5】$S$が体で $a \in \hat{S} \setminus I_S$ ならば、$1/a \in \hat{S}$ である。

(証明)$a \in \hat{S} \setminus I_S$ とする。$a \notin I_S$ だから、$\delta \le \left| a \right|$ となる $\delta \in \mathbb{R}^+$ が存在する。任意の $\epsilon \in \mathbb{R}^+$ に対し、
\[ \left| a-x \right| < \mathrm{min} \{ \, \delta^2 \epsilon /2 , \delta /2 \, \} \]
をみたす $x \in S$ がとれて、
\[ \left| x \right| \ge \left| a \right| - \left| a-x \right| > \delta - \delta /2 = \delta /2 \]
となる。$S$が体だから移行原理より${}^*S$も体で、明らかに$a$も$x$も$0$でないから $1/a, 1/x$ が存在し、
\[ \left| \frac{1}{a} - \frac{1}{x} \right| = \frac{ \left| x-a \right| }{ \left| a \right| \left| x \right| } < \frac{ \delta^2 \epsilon /2 }{ \delta ( \delta /2)} = \epsilon \]
となるから $1/a \in \hat{S}$ である。□

【定理6】$S$が体ならば$I_S$は$\hat{S}$の極大イデアルである。従って剰余環 $T = \hat{S} / I_S$ は体である。

(証明)$I_S$が極大イデアルであることを示すため、$J \supsetneq I_S$ となる$\hat{S}$のイデアル$J$をとる。$a \in J \setminus I_S$ がとれるが、$a \notin I_S$ だから【補題5】より $1/a \in \hat{S}$ で、$J$が$\hat{S}$のイデアルだから $1 = a(1/a) \in J$ より $J = \hat{S}$ となる。従って$I_S$は$\hat{S}$の極大イデアルである。□

 以上で得られた一般的な結果を用いて、$S$を$\mathbb{Q}$とし、絶対値を素数$p$に関する$p$進絶対値 $\left| * \right|_p$ にとって上記の方法で$T$をつくると、$T$は体で$\mathbb{Q}$の$p$進距離に関する完備化になることがわかります。これが超有理数体${}^*\mathbb{Q}$を介する$p$進数体 $\mathbb{Q}_p$ の構成法です。

 同様に、$S$を$\mathbb{Q}$とし、絶対値を通常の絶対値 $\left| * \right|_\infty$ にとって完備化$T$をつくると、$T$は実数体$\mathbb{R}$と同形になります。ただし距離空間の概念に$\mathbb{R}$が使われているので、これをそのまま$\mathbb{R}$の構成法とするわけにはいきません。${}^*\mathbb{Q}$を介して$\mathbb{R}$を構成するのは類似の方法で可能ですが、絶対値の値を$\mathbb{Q}$に限ったり、完備性を別の手段で証明したりするなど若干の修正が必要です。

(続く)(前記事)(目次)

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