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わかってない奴がわかったつもりで書き留める超準解析(その13) [数学]

【超準解析について生半可な知識しかない僕が、わかったつもりの内容をちょっとずつ書き留めていきます。不正確な内容や誤りもあることをご承知ください。】

(13) 超有理数体を用いた実数体の構成

 前回の記事の最後にちょっと触れた、超有理数体${}^*\mathbb{Q}$を用いて実数体$\mathbb{R}$を構成する方法を、ここで一通り記述しておきます。
 $\mathbb{R}$を構成するのですから、$\mathbb{R}$そのものの知識や、距離空間など$\mathbb{R}$を用いた概念の知識はすべて忘却しなければなりません。今回の記事では過去の記事を引用することもやめて、極力記事内で完結するようにします。ただし、第1回の超準モデルに関する一般論と、第5回の前半部の超自然数に関する内容は使用します。

 有理数体$\mathbb{Q}$の超準モデルとして超有理数体${}^*\mathbb{Q}$を考えます。移行原理より${}^*\mathbb{Q}$も順序体です。${}^*\mathbb{Q}$には次の各概念が定義できます( $\left| * \right|$ は順序体の普通の意味での絶対値を表します)。

 $x$は無限大超有理数$\quad \Leftrightarrow \quad x \in {}^*\mathbb{Q} \land \forall y \in \mathbb{Q} \, ( y < \left| x \right| )$
 $x$は有限超有理数$\quad \Leftrightarrow \quad x \in {}^*\mathbb{Q} \land \exists y \in \mathbb{Q} \, ( \left| x \right| \le y )$
 $x$は無限小超有理数$\quad \Leftrightarrow \quad x \in {}^*\mathbb{Q} \land \forall y \in \mathbb{Q} \, ( y > 0 \to \left| x \right| < y )$
 超有理数$x$と$y$は無限に近い$\quad \Leftrightarrow \quad x \approx y \quad \Leftrightarrow \quad x - y$ が無限小超有理数

 ${}^*\mathbb{Q}$は$\mathbb{Q}$を真に拡大するので、$a \in {}^*\mathbb{Q} \setminus \mathbb{Q} \land a > 0$ となる超有理数$a$が存在します。$\mathbb{N} \subsetneq \mathbb{Q}$ なので ${}^*\mathbb{N} \subsetneq {}^*\mathbb{Q}$ であり、$a$は $m,n \in {}^*\mathbb{N}$ によって $a = m/n$ とかけますが、もし $m,n \in \mathbb{N}$ ならば $a \in \mathbb{Q}$ となるので矛盾、従って${}^*\mathbb{Q}$は自然数でない超自然数すなわち無限大超自然数を元にもちます。また無限大超自然数の逆数は$0$でない無限小超有理数なので、${}^*\mathbb{Q}$は$0$でない無限小超有理数も元にもちます。これらより${}^*\mathbb{Q}$は非アルキメデス的順序体となります。

 ここで、有限超有理数の全体を$F_\mathbb{Q}$とし、無限小超有理数の全体を$I_\mathbb{Q}$とします。このとき次の各補題が成り立ちます。

【補題1】$F_\mathbb{Q}$は${}^*\mathbb{Q}$の部分環である。

(証明)容易なので省略。□

【補題2】$I_\mathbb{Q}$は$F_\mathbb{Q}$の極大イデアルである。

(証明)イデアルであることの証明は容易なので省略。極大イデアルであることを示すため、$J \supsetneq I_\mathbb{Q}$ となる$F_\mathbb{Q}$のイデアル$J$をとる。$a \in J \setminus I_\mathbb{Q}$ がとれるが、$a$が無限小でないからその逆数 $1/a$ は有限、すなわち $1/a \in F_\mathbb{Q}$ である。すると$J$が$F_\mathbb{Q}$のイデアルだから $1 = a(1/a) \in J$ より $J = F_\mathbb{Q}$ となり、従って$I_\mathbb{Q}$は$F_\mathbb{Q}$の極大イデアルである。□

 これらより、$\mathbb{R}$を体演算まで含めて定義することができます。

実数体の定義】剰余環 $F_\mathbb{Q} / I_\mathbb{Q}$ は体であるから、これを$\mathbb{R}$とかいて実数体と呼ぶ。


 次に$\mathbb{R}$に順序を定めて順序体にします。このためまず${}^*\mathbb{Q}$の順序を用いて、${}^*\mathbb{Q}$上の関係$\preceq$を
\[ x \preceq y \quad \Leftrightarrow \quad x \approx y \lor x < y \]
によって定めると、これは${}^*\mathbb{Q}$上の擬順序になります。実際、反射律 $x \preceq x$ は明らかです。推移律 $x \preceq y \land y \preceq z \to x \preceq z$ については$\approx$や$<$に推移律が成り立ちますので、
\[ x \approx y \land y < z \]
の場合を示せば十分ですが、このとき $x < z$ でなければ $y < z \le x \land y \approx x$ より $z \approx x$ となるので、この場合も $x \preceq z$ となり推移律も成り立ちます。さらに比較可能律
\[ x \preceq y \lor y \preceq x \]
が成り立つことも明らかです。

 この${}^*\mathbb{Q}$上の擬順序$\preceq$に対して、明らかに
\[ x - y \in I_\mathbb{Q} \quad \Leftrightarrow \quad x \approx y \quad \Leftrightarrow \quad x \preceq y \land y \preceq x \]
が成り立ちますから、$\mathbb{R}$上の関係$\le$を
\[ [x] \le [y] \quad \Leftrightarrow \quad x \preceq y \]
( $[x]$ は$x$を代表元とする同値類)によって定めると、この$\le$は正しく定義されており、$\mathbb{R}$上の全順序になります。

【定理3】$\mathbb{R}$は上で定めた関係$\le$によって順序体となる。

(証明)$\le$が全順序であることまでは既に示されたから、演算との両立性を示せばよい。このためには$\preceq$について、
 i) $x \preceq y \to x+z \preceq y+z$
 ii) $0 \preceq x \land 0 \preceq y \to 0 \preceq xy$
が$F_\mathbb{Q}$上で成り立つことを示せばよい。
 i) については、$x \preceq y$ を仮定すると $x \approx y \lor x < y$ だから、$x \approx y$ のときは $x+z \approx y+z$ であり、$x < y$ のときは $x+z < y+z$ となって、いずれの場合も $x+z \preceq y+z$ が成り立つ。
 ii) については、$0 \preceq x \land 0 \preceq y$ を仮定すると、
\[ (0 \approx x \lor 0 < x) \land (0 \approx y \lor 0 < y) \]
となるから、$0 < x \land 0 < y$ の場合は $0 < xy$ であり、それ以外の場合は $x,y$ が有限超有理数だから $0 \approx xy$ で、いずれの場合も $0 \preceq xy$ が成り立つ。□

 $x \in \mathbb{Q}$ に $[x] \in \mathbb{R}$ を対応させる写像によって、$\mathbb{Q}$を部分順序体として$\mathbb{R}$に埋め込むことができます。$x \in {}^*\mathbb{Q}$ に対して $0 < [x]$ ならば$x$は無限小でないから、$F_\mathbb{Q}$上で $0 < y < z < x$ となる $y,z \in \mathbb{Q}$ が存在し、$\mathbb{R}$上で $0 < [y] < [x]$ となるから、埋め込まれた$\mathbb{Q}$は$\mathbb{R}$において稠密で、$\mathbb{R}$はアルキメデス的順序体になります。

 最後に$\mathbb{R}$の完備性を示します。残念ながら距離空間の一般論は使うことができないので、素朴な方法に頼らざるを得ません。$\mathbb{R}$の完備性を特徴づける同値な条件はいくつか知られていますが、ここではいわゆる区間縮小法の原理が成り立つことを証明します。次の定理が示されれば、アルキメデス性とあわせて$\mathbb{R}$の完備性が示されたことになります。

【定理4】$\mathbb{R}$上の有界閉区間の列 $\{ I_k \}$ が、 \[ I_0 \supseteq I_1 \supseteq \cdots \supseteq I_k \supseteq I_{k+1} \supseteq \cdots \] をみたすならば、 \[ \bigcap_{k \in \mathbb{N}} I_k \neq \emptyset \tag{1} \] が成り立つ。

(証明)$I_k = [a_k, b_k] \, (a_k, b_k \in \mathbb{R}, a_k \le b_k)$ とする。このとき、
\[ a_0 \le a_1 \le \cdots \le a_k \le a_{k+1} \le \cdots \le b_{k+1} \le b_k \le \cdots \le b_1 \le b_0 \]
である。ある自然数$n$より先の$k$について $a_k = b_k$ となるときは明らかに$(1)$が成り立つ。そうでないとすると、$\mathbb{Q}$が$\mathbb{R}$において稠密だから、
\[ \forall k \in \mathbb{N} \, (a_k < c_k < b_k) \]
をみたす有理数列 $\{ c_k \}$ をとることができる。このとき任意の自然数$k$に対して、$\mathbb{R}$上で
\[ \forall n \in \mathbb{N} \, (k \le n \to a_k < c_n < b_k) \]
が成り立つから、移行原理より超実数体${}^*\mathbb{R}$上で
\[ \forall n \in {}^*\mathbb{N} \, (k \le n \to a_k < c_n < b_k) \]
が成り立つ(この論法に$\mathbb{R}$の完備性は必要としない)。無限大超自然数$n$を一つとると $c_n \in {}^*\mathbb{Q}$ で、この$c_n$は上下を実数で挟まれるから有理数でも挟まれ、有限超有理数すなわち $c_n \in F_\mathbb{Q}$ である。従って $c = [c_n]$ となる $c \in \mathbb{R}$ が存在する。ここで $c < a_k$ と仮定すると、$\mathbb{Q}$が$\mathbb{R}$において稠密だから、$\mathbb{R}$上で
\[ c < d < a_k \]
をみたす $d \in \mathbb{Q}$ が存在し、これに対して$\mathbb{R}$の順序の定義より${}^*\mathbb{Q}$上で $c_n < d$ であるから、${}^*\mathbb{R}$上で
\[ c_n < d < a_k \]
となって矛盾を生じ、従って $a_k \le c$ である。同様に $c \le b_k$ であるから、 $a_k \le c \le b_k$ すなわち $c \in I_k$ がすべての自然数$k$に対して成り立ち、これより
\[ c \in \bigcap_{k \in \mathbb{N}} I_k \]
となって$(1)$が成り立つ。□

 以上で、この方法で超有理数体から構成された$\mathbb{R}$が実数体の性質をすべて持つことが示されました。

(続く)(前記事)(目次)

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