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「アカンポ( Norbert A'Campo )の実数論について」発表レポート [数学]

 先日10/31にオンラインで行われた「第19回関西日曜数学会」で、タイトルの5分間発表をしました。その内容をここで紹介します。

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 内容は、スイスの数学者 Norbert A’Campo 氏による実数体の構成法の紹介です。

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 自然数から複素数まで数の体系を構成していく過程の中で、有理数体から実数体を構成する方法が最も複雑で、かつ面白いところです。一般に参考書等でよく紹介されているのは、デデキントの切断を用いる方法や、コーシー列を用いる方法があります(変わったところでは「超有理数体」を用いる方法があり、これは以前の僕のブログでも紹介しました)。

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 今回紹介したのは、Norbert A’Campo 氏による有理数体$\mathbb{Q}$ではなく整数環$\mathbb{Z}$を元にした新しい実数体の構成法です。
 ‘‘A natural construction for the real numbers’’ というタイトルで2003年にarXivに投稿されました。リンクはこちらから。

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 実数の定義自体は上記のように非常に簡単なものです。

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 実数間に上記のように加法、乗法演算と順序関係を定義すると、これで実数体の公理系(完備性を持つ順序体であること)が全て証明できてしまいます。証明の内容は時間がないので紹介しませんでしたが、ペーパーには数ページで一通り書かれており、それほど難しい内容ではありません。

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 ここからはペーパーには書かれていませんが、一体この構成法では何をやっているのかということについて僕なりの理解を説明しました。スロープとは結局、ある実数$a$に対する
\[ f_a(x)=ax \]
という形の関数(線形関数)を、整数上の関数で近似したものという理解です。だからスロープの同値類を実数と定義するとうまくいくという話になります。

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 スロープの特徴づけに関する証明です。「コーシー列は収束する」という実数体の特徴を使います。

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 スロープが線形関数の近似であることがわかれば、上の演算と順序の定義は極めて自然であることが理解できます。

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 以上、アカンポの実数論の簡単な紹介でした。
 こんな発想で実数体が構成できることに、正直なところ目から鱗という感想を持ちました。

(2020年11月22日追記)
ニコニコ動画に発表の様子が掲載されました。

(2021年2月1日追記)
実数体の構成法を一通り書き出しました。

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