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アルキメデス的な順序環は可換であることについて [数学]

 前回の記事で、「順序完備かつ自己稠密な順序環は体である」ことを証明しました。今回も順序環についてのちょっとした定理を証明します。

【定理】順序環は、アルキメデス的ならば可換である。

 ここでちょっとおことわりを。前回は順序環に(乗法演算の)可換性を仮定しましたが、今回はそれは仮定しません(それを証明するのですから当然ですね)。ただし乗法単位元1は有するとします。
 実際にはこの定理が証明できれば、前回の定理においても順序完備性からアルキメデス性が得られるわけですから、可換性を仮定する必要はないことになります。

 以下、$R$ を順序環とします。$R$ は乗法単位元を有するので、整数環 $\mathbb{Z}$ を部分順序環として包含すると考えられます。このとき、次の事実は数学的帰納法などを用いて簡単に証明できます。
\[ \forall n \in \mathbb{Z} \, \forall a \in R \, (na = an) \]
これを念頭において定理を証明します。

(定理の証明)$R$ が非可換と仮定し、ある $a,b \in R$ に対して $ab \neq ba$ とする。$a,b$ はどちらも$0$ではなく、また $ab \neq ba$ ならば $(-a)b \neq b(-a)$ かつ $a(-b) \neq (-b)a$ だから、$a > 0$ かつ $b > 0$ としてよい。さらに $ab < ba$ として一般性を失わない。以下これらを仮定する。
 $ba - ab > 0$ で、$R$ はアルキメデス的だから、
\[ b < m(ba - ab) \]
をみたす $m \in \mathbb{N}$ が存在する。この $m$ に対して再び $R$ のアルキメデス性より、
\[ nb < mba \le (n+1)b \]
をみたす $n \in \mathbb{N}$ が存在する。これらに対して、まず
\[ bn = nb < mba = b(ma) \]
かつ $b > 0$ より $n < ma$ が成り立つ。一方、
\[ mba + mab \le (n+1)b +mab = nb + b + mab < nb + m(ba - ab) + mab = nb + mba \]
より
\[ (ma)b < nb \]
であるから、$b > 0$ より $ma < n$ が成り立つ。これは矛盾である。□

 割とあっさり証明できてしまいました。

 そうすると、アルキメデス的でない非可換な順序環の存在を例示したくなりますが、これが今のところなかなか思いつきません。非可換環の上に演算と整合する順序を載せるのは結構難しそうです。

(2021/2/21追記)
 非可換な順序環の例がありました。


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