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有限体の勉強 〜素体上の既約多項式への分解〜 [数学]

 有限体のことを何も知らないので勉強を始めました。前回は標数2の有限体のうち、$F_2$ から $F_{16}$ までの加算乗算表を作るところまでやってみました。

 この過程で見えてきたことを一つずつ検証してみます。

 まず単純な話ですが、$F_2$ 上の多項式には次数$n$が何であっても必ず$n$次の既約多項式がある、という事実があります。$2$次ならば $X^2+X+1$ がそうですし、$3$次でも$4$次でもありました。これは標数が一般の素数$p$に対して成り立ちます。

 このことを証明するために、有限体の位数(元の数)に関する基本的な定理をまず書いておきます。

【定理1】有限体の位数はある素数$p$と正整数$n$に対して $p^n$ と表されるものに限る。逆に、任意の素数$p$と正整数$n$に対して位数 $p^n$ の有限体が同形を除いて一意に存在し、それは素体 $F_p$ 上の多項式 $X^{p^n}-X$ の最小分解体である。

(証明)$K$を有限体とすると、$\mathbb{Q}$が無限集合だから$K$の標数は$0$ではなく、素数$p$である。$K$は素体 $F_p$ 上の有限次元ベクトル空間なので、次元を$n$とすると$K$の位数は $p^n$ になる。従って有限体の位数は $p^n$ と表されるものに限られる。
 素数$p$と正整数$n$に対して $q = p^n$ とし、$F_p$ 上で$q$次の多項式 $f(X) = X^q-X$ を考えると、体の拡大の一般論によって、$f(X)$ の $F_p$ 上の最小分解体が同形を除いて一意に存在する。また $f(X)$ の形式微分は標数が$p$であることから $f'(X) = -1$ なので $f(X)$ は重根を持たず、従って最小分解体上で $f(X)$ は異なる$q$個の根を持つ。$\alpha, \beta$ を $f(X)$ の根とすると、フロベニウス写像が環準同型であることと $\alpha^q = \alpha, \, \beta^q = \beta$ より、
\begin{eqnarray*}
f(\alpha+\beta) &=& (\alpha+\beta)^{p^n} - (\alpha+\beta) = \alpha^{p^n} +\beta^{p^n} - \alpha - \beta = \alpha^q +\beta^q - \alpha - \beta = \alpha + \beta - \alpha - \beta = 0 \\
f(\alpha\beta) &=& (\alpha\beta)^q - \alpha\beta = \alpha^q \beta^q - \alpha\beta = \alpha \beta - \alpha\beta = 0 \\
f(\alpha^{-1}) &=& (\alpha^{-1})^q - \alpha^{-1} = (\alpha^q)^{-1} - \alpha^{-1} = \alpha^{-1} - \alpha^{-1} = 0
\end{eqnarray*}
となるから、$f(X)$ の$q$個の根の集合は体を構成する。従って最小分解体はちょうど$q$個の元を持ち、位数$q$の有限体は存在する。
 位数$q$の体$K$の乗法群 $K^\times$ は位数 $q-1$ なので、任意の $K^\times$ の元$\alpha$は $\alpha^{q-1} = 1$ をみたし、従って$K$の$q$個の元は$0$を含め全て $\alpha^q = \alpha$ をみたすから、$f(X)$ の根である。従って $f(X)$ は$K$上$q$個の$1$次式に分解されるから、$K$は $F_p$ 上の $f(X)$ の最小分解体である。従って位数$q$の有限体は同形を除いて一意に定まる。□

 平たくいうと、位数 $q = p^n$ の有限体は、$F_p$ の拡大体で多項式 $X^q-X$ の$q$個の根を元に持つものとして特徴付けられることになります。

 さて、位数 $q = p^n$ の有限体 $F_q$ は素体 $F_p$ 上の$n$次元ベクトル空間ですから、体の拡大の一般論によって、ある $F_q$ の元$\alpha$があって $F_q = F_p(\alpha)$ と表され(つまり $F_q$ は$\alpha$を $F_p$ に添加した体であり)、$\alpha$の $F_p$ 上の最小多項式の次数が$n$になります。 この最小多項式は $F_p$ 上で既約なので、これで $F_p$ 上の$n$次の既約多項式の存在が示されました。

 ここまでの知識を持って前回の記事を見返し、特に $F_{16}$ について $X^{16}-X$ を $F_2$ 上で既約多項式に分解した結果を再度見直してみます。
\[ X^{16}-X = X(X-1)(X^2+X+1)(X^4+X+1)(X^4+X^3+1)(X^4+X^3+X^2+X+1) \tag{1} \]
$16=2^4$ なので因子に$4$次多項式が含まれることはわかるのですが、そのほかに$1$次と$2$次の多項式も因子に含まれています。そして、
\begin{eqnarray*}
X^4-X &=& X(X-1)(X^2+X+1) \\
X^2-X &=& X(X-1)
\end{eqnarray*}
であり、$F_4$ は $F_2$ 上の $X^4-X$ の最小分解体、$F_{16}$ は $F_2$ 上の $X^{16}-X$ の最小分解体であることを考えると、$X^{16}-X$ が $X^4-X$ を因子に持ち、また $X^4-X$ が $X^2-X$ を因子に持つことから、
\[ F_2 \subset F_4 \subset F_{16} \]
という拡大体の系列ができていることがわかります。
 これは一般に次の形で成り立ちます。

【定理2】有限体 $F_{p^m}$ と $F_{p^n}$ について、$F_{p^m} \subseteq F_{p^n}$ であることと $m \mid n$ であることは同値である。

(証明)$F_{p^m} \subseteq F_{p^n}$ ならば、$F_{p^n}$ の $F_{p^m}$ 上の拡大次数を$k$とすると、$(p^m)^k = p^n$ より $mk=n$ すなわち $m \mid n$ である。
 逆に $m \mid n$ ならば、$mk=n$ とすると、
\[ p^n-1 = (p^m)^k-1 = (p^m-1)((p^m)^{k-1} + \cdots + p^m +1) \]
なので、$\ell = (p^m)^{k-1} + \cdots + p^m +1$ とおくと、$F_p$ 上で
\begin{eqnarray*}
X^{p^n}-X &=& X(X^{p^n-1}-1) \\
&=& X((X^{p^m-1})^\ell -1) \\
&=& X(X^{p^m-1} -1)((X^{p^m-1})^{\ell-1} + \cdots + X^{p^m-1} + 1) \\
&=& (X^{p^m}-X)((X^{p^m-1})^{\ell-1} + \cdots + X^{p^m-1} + 1)
\end{eqnarray*}
が成り立つ。よって $F_{p^n}$ 上で $X^{p^m}-X$ の根が $p^m$ 個存在し、それらは体 $F_{p^m}$ を構成するから $F_{p^m} \subseteq F_{p^n}$ である。□

 このことから、$F_p$ 上の多項式 $X^{p^n}-X$ の分解については、次の特徴でまとめられることがわかります。

【定理3】$F_p$ 上の多項式 $X^{p^n}-X$ について次が成り立つ。
 ① $n$の全ての約数$m$に対し、$X^{p^n}-X$ は $X^{p^m}-X$ を因子に持つ。
 ② $n$の全ての約数$m$に対し、$X^{p^n}-X$ は次数$m$の全ての既約多項式を因子に持つ。
 ③ $m$が$n$の約数でなければ、$X^{p^n}-X$ は次数$m$の既約多項式を因子に持たない。
 ④ $X^{p^n}-X$ は$1$次以上の多項式の平方を因子に持たない。

(証明)①は【定理2】で示したとおり。
 ②は、$X^{p^m}-X$ が次数$m$の全ての既約多項式を因子に持つことを示せば、①から従う。もし $X^{p^m}-X$ の因子にない次数$m$の既約多項式が存在すると仮定すると、その既約多項式を使って $F_p$ を $F_{p^m}$ に拡大することができ、$X^{p^m}-X$ の別の分解ができてしまうので、多項式環 $F_p[X]$ の一意分解性に矛盾する。
 ③を示すため、$m \nmid n$ なる$m$に対して、$F_p$ 上既約な次数$m$の多項式 $f(X)$ が $X^{p^n}-X$ の因子に含まれると仮定する。$F_p$ の拡大体 $F_{p^m}$ を考えると、②より $f(X)$ は $X^{p^m}-X$ の因子にも含まれ、$f(X)$ の全ての根は $F_{p^n}$ と $F_{p^m}$ の両方に属する。$K = F_{p^m} \cap F_{p^n}$ とおくと、$K$は加法、乗法と乗法逆元に対して閉じているので $F_{p^m}$ と $F_{p^n}$ の共通の部分体である。よって【定理2】より、ある正整数$k$があって $K = F_{p^k}$ かつ $k \mid m$ かつ $k \mid n$ であるが、一方で $f(X)$ の全ての根が$K$に属することから $X^{p^k}-X$ は $f(X)$ を因子に持ち、$f(X)$ は $F_p$ 上既約で次数$m$だから、拡大 $F_{p^k}/F_p$ の次数$k$は $k \ge m$ をみたす。従って $k=m$ となるしかなく、$m \mid n$ が従うが、仮定より $m \nmid n$ なので矛盾である。
 ④については、もし $X^{p^m}-X$ が$1$次以上の多項式 $f(X)$ の平方を因子に持ったと仮定すると、
\[ X^{p^m}-X = f(X)^2g(X) \]
と表され、この両辺を形式微分すると標数が$p$であることから、
\[ -1 = f(X)(2f'(X)g(X)+f(X)g'(X)) \]
となって矛盾を生じる。


 $X^{16}-X$ を $F_2$ 上で分解した式$(1)$を見ると、実際に①③④が成り立っていることがわかり、さらに②の事実から、

 $F_2$ 上の$1$次の既約多項式は $X, \ X-1$(あるいは $X, \ X+1$ )の$2$個
 $F_2$ 上の$2$次の既約多項式は $X^2+X+1$ の$1$個
 $F_2$ 上の$4$次の既約多項式は $X^4+X+1, \ X^4+X^3+1, \ X^4+X^3+X^2+X+1$ の$3$個

であることがわかります。次数をみると、
\[ 1 \times 2 + 2 \times 1 + 4 \times 3 = 16 \]
となるので、計算が合いますね。

 一般に素数$p$と正整数$n$に対して、$F_p$ 上の$n$次のモニックな既約多項式の個数を $\sigma(p,n)$ とおくと、$X^{p^n}-X$ の $F_p$ 上の既約因子への分解を考え、【定理3】を使ってその次数を比較することにより、
\[ p^n = \sum_{d \mid n} d \sigma(p,d) \tag{2} \]
であることがわかります。ここで右辺は$n$の全ての約数$d$にわたって和を取ることを意味します。明らかに $\sigma(p,1)=p$ なので、これを用いて再帰的に $\sigma(p,n)$ が計算できます。$p=2, 3$ のときに実際に計算すると、
\begin{eqnarray*}
\sigma(2,1) && &=& 2 \\
\sigma(2,2) &=& (2^2 - \sigma(2,1))/2 &=& 1 \\
\sigma(2,3) &=& (2^3 - \sigma(2,1))/3 &=& 2 \\
\sigma(2,4) &=& (2^4 - \sigma(2,1) - 2\sigma(2,2))/4 &=& 3 \\
\sigma(2,5) &=& (2^5 - \sigma(2,1))/5 &=& 6 \\
\sigma(2,6) &=& (2^6 - \sigma(2,1)- 2\sigma(2,2)- 3\sigma(2,3))/6 &=& 9 \\
&\cdots& \\
\\
\sigma(3,1) && &=& 3 \\
\sigma(3,2) &=& (3^2 - \sigma(3,1))/2 &=& 3 \\
\sigma(3,3) &=& (3^3 - \sigma(3,1))/3 &=& 8 \\
\sigma(3,4) &=& (3^4 - \sigma(3,1) - 2\sigma(3,2))/4 &=& 18 \\
\sigma(3,5) &=& (3^5 - \sigma(3,1))/5 &=& 48 \\
\sigma(3,6) &=& (3^6 - \sigma(3,1)- 2\sigma(3,2)- 3\sigma(3,3))/6 &=& 116 \\
&\cdots&
\end{eqnarray*}
となります。

 もう一つ、前回の記事において、$F_2$ においては既約多項式の根は2乗しても同じ既約多項式の根になる、という現象を見ました。これは一般の標数$p$に対して次のように証明できます(既約多項式でなくても成立します)。

【定理4】$f(X)$ を $F_p$ 上の多項式とし、$\alpha$を $F_p$ の拡大体$K$における $f(X)$ の根とすると、$\alpha^p$ も $f(X)$ の根である。従って任意の正整数$n$に対し $\alpha^{p^n}$ も $f(X)$ の根である。

(証明)$F_p$ の拡大体$K$上で $f(\alpha) = 0$ なので、$(f(\alpha))^p = 0$ である。$\displaystyle f(X) = \sum_{i=0}^mc_iX^i$ とすると、標数が$p$だからフロベニウス写像が環準同型であることより、
\[ (f(\alpha))^p = \left( \sum_{i=0}^mc_i \alpha^i \right)^p = \sum_{i=0}^m(c_i)^p (\alpha^i)^p = \sum_{i=0}^m(c_i)^p (\alpha^p)^i \]
ここで係数 $c_i$ は $F_p$ の元だから $0^p=0$ とフェルマーの小定理によって $(c_i)^p = c_i$ である。よって、
\[ f(\alpha^p) = (f(\alpha))^p = 0 \]
が従い、$\alpha^p$ も $f(X)$ の根である。□

 これより、$q = p^n$ のとき $F_q$ の$q$個の元は、$F_p$ 上の $X^q-X$ の既約因子のどれに所属するかに基づき、それぞれの既約因子の次数$d$ずつ組になって$p$乗の繰り返しによって巡回します。具体的には、例えば$d$次の既約多項式 $f(X)$ が $X^q-X$ の因子とし、その$1$つの根を$\alpha$とすると、
\[ \alpha, \alpha^p, \alpha^{p^2}, \cdots , \alpha^{p^{d-1}} \]
の$d$個の $F_q$ の元がどれも $f(X)$ の根となり、$f(X)$ の根は$d$個なので、$p$乗の繰り返しによってこれら$d$個の間で巡回します。

 もう一度前回の記事の、$F_8$ や $F_{16}$ の原始元のべき表現と既約因子の根との対応を見ると、上の内容がよくわかります。例えば $F_{16}$ では、既約多項式 $X^4+X+1$ の一つの根を $\alpha$ とすると、各既約因子と根との対応は、
\begin{eqnarray*}
X \ &:& \ 0 \\
X-1 \ &:& \ \alpha^0 \\
X^2+X+1 \ &:& \ \alpha^5, \alpha^{10} \\
X^4+X+1 \ &:& \ \alpha^1, \alpha^2, \alpha^4, \alpha^8 \\
X^4+X^3+1 \ &:& \ \alpha^{14}, \alpha^{13}, \alpha^{11}, \alpha^7 \\
X^4+X^3+X^2+X+1 \ &:& \ \alpha^3, \alpha^6, \alpha^{12}, \alpha^9
\end{eqnarray*}
のようになりました。$\alpha^{15}=1$ なので、これらの根を$2$乗すること、すなわち指数で見ると$2$をかけて$\mod 15$ をとることによって、
\begin{eqnarray*}
X-1 \ &:& 0 \to 0\\
X^2+X+1 \ &:& 5 \to 10 \to 5\\
X^4+X+1 \ &:& 1 \to 2 \to 4 \to 8 \to 1\\
X^4+X^3+1 \ &:& 14 \to 13 \to 11 \to 7 \to 14\\
X^4+X^3+X^2+X+1 \ &:& 3 \to 6 \to 12 \to 9 \to 3
\end{eqnarray*}
のようにそれぞれの既約多項式の中で巡回することがわかります。

 これでとりあえず前回の記事に関する検証ができたし、これ以上書くとボロが出るので、この辺までにしておきます。

(続く)(前記事)

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