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わかってない奴がわかったつもりで書き留める超準解析(その16) [数学]

【超準解析について生半可な知識しかない僕が、わかったつもりの内容をちょっとずつ書き留めていきます。不正確な内容や誤りもあることをご承知ください。】

(16) ヒルベルト立方体のコンパクト性

 今回は、何の脈絡もなくタイトルの事実を超準解析を使って証明します(単に僕が簡単で面白いと思ったからです)。

 ヒルベルト立方体とは、$\mathbb{R}$ の閉区間 $[0,1]$ の可算無限個の直積、つまり $0$ 以上 $1$ 以下の値をとる実数列の全体のことをいいます。これを $\mathcal{H}$ と書くことにします。
\begin{equation*}
\mathcal{H} = [0,1]^\mathbb{N} = \, \{ \, \alpha \, \mid \, \alpha \in {}^\mathbb{N}\mathbb{R} \land \forall i \in \mathbb{N} \, (0 \le \alpha(i) \le 1) \, \}
\end{equation*}
 $\mathcal{H}$ 上に次によって距離 $d$ を定めると、$\langle \mathcal{H},d \rangle$ は距離空間になります。
\begin{equation*}
d(\alpha,\beta) = \sum_{i=0}^\infty \frac{\left| \alpha(i)-\beta(i) \right|}{2^{i+1}}
\end{equation*}
 以下、超準解析を使って $\langle \mathcal{H},d \rangle$ がコンパクト空間であることを証明します。

 距離空間がコンパクトであることを超準解析で証明するためには、第8回【定理3】を使えばよいわけですが、$\mathcal{H}$ の距離の定義に無限級数が使われていますので、そのままでは超準モデル ${}^*\mathcal{H}$ の距離にはうまく移行できません。このため次で示すように、無限級数を有限和で近似させるという手段を取ります。

 $\alpha \in \mathcal{H}$ と自然数 $n$ に対し、$\alpha$ の $n$ 番目以降の値が全て $0$ である数列を $\alpha^{(n)}$ と書くことにします。このとき、
\begin{equation*}
d(\alpha,\alpha^{(n)}) = \sum_{i=n}^\infty \frac{\left| \alpha(i) \right|}{2^{i+1}} \le \sum_{i=n}^\infty \frac{1}{2^{i+1}} = \frac{1}{2^n}
\end{equation*}
より、
\begin{equation} \tag{1}
d(\alpha,\alpha^{(n)}) \le \frac{1}{2^n}
\end{equation}
が成立します。また、$\alpha, \beta \in \mathcal{H}$ と自然数 $n$ に対し、
\begin{equation*}
d(\alpha^{(n)}, \beta^{(n)}) = \sum_{i=0}^{n-1} \frac{\left| \alpha(i) - \beta(i) \right|}{2^{i+1}} \le \max_{i \le n-1}{\left| \alpha(i) - \beta(i) \right|} \sum_{i=0}^{n-1} \frac{1}{2^{i+1}} = \max_{i \le n-1}{\left| \alpha(i) - \beta(i) \right|} (1 - \frac{1}{2^n})
\end{equation*}
より
\begin{equation} \tag{2}
d(\alpha^{(n)}, \beta^{(n)}) \le \max_{i \le n-1}{\left| \alpha(i) - \beta(i) \right|} (1 - \frac{1}{2^n})
\end{equation}
が成立します。

 一方、$\mathcal{H}$ の超準モデル ${}^*\mathcal{H}$ については、
\begin{equation*}
{}^*\mathcal{H} = \, \{ \, \alpha \, \mid \, \alpha \in {}^{{}^*\mathbb{N}*}\mathbb{R} \land \forall i \in {}^*\mathbb{N} \, (0 \le \alpha(i) \le 1) \, \}
\end{equation*}
つまり、${}^*\mathcal{H}$ は $0$ 以上 $1$ 以下の超実数列番号も超自然数)の全体です。$\alpha \in {}^*\mathcal{H}$ と超自然数 $n$ に対して $\alpha^{(n)}$ を同様に定めると、$(1)$と移行原理より
\begin{equation} \tag{3}
{}^*d(\alpha,\alpha^{(n)}) \le \frac{1}{2^n}
\end{equation}
が成立し、また、$\alpha, \beta \in {}^*\mathcal{H}$ と超自然数 $n$ に対して、$(2)$と移行原理より
\begin{equation} \tag{4}
{}^*d(\alpha^{(n)}, \beta^{(n)}) \le \max_{i \le n-1}{\left| \alpha(i) - \beta(i) \right|} (1 - \frac{1}{2^n})
\end{equation}
が成立します。

 さて、$\mathcal{H}$ がコンパクトであることを示すためには、第8回【定理3】より、任意の $\alpha \in {}^*\mathcal{H}$ に対して
\begin{equation*}
{}^*d(\alpha, \beta) \approx 0
\end{equation*}
となる $\beta \in \mathcal{H}$ が存在することを示せばよいわけです。いま任意に $\alpha \in {}^*\mathcal{H}$ をとります。これに対して、
\begin{equation*}
\forall i \in \mathbb{N} \, (\beta(i) = \mathrm{st}(\alpha(i)))
\end{equation*}
となる $\beta \in \mathcal{H}$ をとることができます($0 \le \alpha(i) \le 1$ だから右辺は実数値として定まります)。ここで任意に正実数 $\epsilon$ をとると、これに対して
\begin{equation*}
\frac{1}{2^n} < \epsilon
\end{equation*}
をみたす自然数 $n$ がとれ、$(1)$より
\begin{equation*}
d(\beta,\beta^{(n)}) \le \frac{1}{2^n} < \epsilon
\end{equation*}
となります。次に、
\begin{equation*}
\mu = \max_{i \le n-1}{ \left| \beta(i) - \alpha(i) \right| }
\end{equation*}
とおくと、$\beta$ の定め方より $\mu \approx 0$ ですから、$(4)$より
\begin{equation*}
{}^*d(\beta^{(n)}, \alpha^{(n)}) \le \mu (1 - \frac{1}{2^n}) \approx 0
\end{equation*}
となって ${}^*d(\beta^{(n)}, \alpha^{(n)}) \approx 0$ です。さらに$(3)$より
\begin{equation*}
{}^*d(\alpha^{(n)}, \alpha) \le \frac{1}{2^n} < \epsilon
\end{equation*}
です。これらより
\begin{equation*}
{}^*d(\beta, \alpha) \le d(\beta,\beta^{(n)}) + {}^*d(\beta^{(n)}, \alpha^{(n)}) + {}^*d(\alpha^{(n)}, \alpha) \le 2\epsilon
\end{equation*}
となって、
\begin{equation*}
{}^*d(\beta, \alpha) \le 2\epsilon
\end{equation*}
が得られます。$\epsilon$ は任意の正実数だから ${}^*d(\beta, \alpha) \approx 0$ ということになり、第8回【定理3】より $\langle \mathcal{H},d \rangle$ がコンパクト空間であることが証明されました。

 距離の定義となった無限級数に移行原理を使おうとするのではなく、有限和から得られた不等式に移行原理を適用するのが本証明のミソです。

(続く)(前記事)(目次)



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自然な量の公理系では和の交換則が冗長であることについて [数学]

 前回の記事 「ぼくのかんがえたさいきょうの実数論」発表レポート の中で、初めに「いにしえの塩売りが量の概念を数学的にとらえた公理系?」を紹介しました。

20191102ぼくのかんがえたさいきょうの実数論(ブログ用修正).003.jpeg

 このスライドの下の方にひっそりと、
「実は交換則 3) は冗長(他から証明できる)」
と書かれていることにお気づきかと思います。本記事ではそれを証明します。

 前提として、$\langle Q,+,< \rangle$ はスライドに書かれた「(正の)量の空間」の3)を除く各公理をみたす空間とします。この前提から3)を証明するのが目的です。改めて公理として再掲します。

【公理】$\langle Q,+,< \rangle$ は次をみたす空間とする。
 1) $\lnot a < a \land (a=b \lor a < b \lor b < a)$
 2) $a < b \land b < c \to a < c$
 3) (削除)
 4) $(a+b)+c=a+(b+c)$
 5) $a < a+b$
 6) $a < b \to \exists c \, (a+c=b)$
 7) $\exists n \in \mathbb{N}_+ \, (b < na) \quad$ ただし$na$は$a$の$n$個の和(アルキメデス性)

 1), 2) より $Q$ は全順序集合であり、以下の議論では全順序集合の性質は自由に使います。また 4) の結合則から得られる性質も自由に使います。ことわりがなければ変数は全て $Q$ 上のものです。

 まず、$Q$ において消去則が成りたつことを示します。左からの和については簡単に示せます。

【補題1】$Q$ において次が成立する。
 1) $a < b \leftrightarrow c+a < c+b$
 2) $a=b \leftrightarrow c+a=c+b$

(証明)
1) $a < b$ ならば、【公理】6) より $a+d=b$ となる $d$ が存在し、$c+a+d=c+b$ となるから【公理】5) より $c+a < c+b$ である。
 逆に $c+a < c+b \land \lnot a < b$ と仮定すると、$a=b$ のときは $c+a=c+b$ となって矛盾し、$b < a$ のときは $c+b < c+a$ となってやはり矛盾する。
2) $\to$は明らか。逆に $c+a=c+b \land a \neq b$ を仮定すると、$a < b$ のときは 1) より $c+a < c+b$ となって矛盾し、$b < a$ のときも同様に矛盾する。□

 右からの和についての消去則を示すためには、アルキメデス性が必要になります。

【補題2】$Q$ において次が成立する。
 1) $a < b+a$
 2) $a < b \leftrightarrow a+c < b+c$
 3) $a=b \leftrightarrow a+c=b+c$

(証明)
1) $a \ge b+a$ と仮定すると、【補題1】1) より、
\begin{equation*}
a \ge b+a \ge b+b+a \ge b+b+b+a \ge \cdots
\end{equation*}
より、任意の $n \in \mathbb{N}_+$ に対して $a \ge nb+a$ である。【公理】5) より $a > nb$ となるから、これは【公理】7) (アルキメデス性)と矛盾する。従って $a < b+a$ が成立する。
2) $a < b$ ならば、【公理】6) より $a+d=b$ となる $d$ が存在し、1) より $c < d+c$ だから、【補題1】1) より
\begin{equation*}
a+c < a+d+c = b+c
\end{equation*}
となって$\to$が成立する。逆向きは【補題1】1) の後半と同様。
3) 【補題1】2) と同様。□

 これらの補題を用いて、【公理】から削除された交換則を証明します。見やすさのため証明中では補題はなるべく引用しないことにします。

【定理】【公理】 の 1), 2) および 4)〜7) から
 3) $a+b=b+a$
が導かれる。

(証明)3) が成り立たない、すなわちある $a,b$ に対して $a+b \neq b+a$ であると仮定する。$a+b < b+a$ として一般性を失わない。このとき【公理】6) より
\begin{equation} \tag{1}
a+b+c=b+a
\end{equation}
となる $c$ が存在する。そこで、任意の $n \in \mathbb{N}_+$ に対し
\begin{equation} \tag{2}
\forall a,b,c \, (a+b+c=b+a \to nc < a)
\end{equation}
が成り立つことを示す。これが示されたら$(1)$をみたす $a,b,c$ と任意の $n \in \mathbb{N}_+$ に対して $nc < a$ となるから、【公理】7)(アルキメデス性)と矛盾するので証明が完了する。
 $n$に関する数学的帰納法を用いる。
(I) $n=1$ のとき。任意に$(1)$をみたす $a,b,c$ をとる。
\begin{equation*}
a+b+c = b+a < a+b+a
\end{equation*}
より $c < a$ となるから、$n=1$ のときは$(2)$が成立する。
(II) $n=k$ に対して$(2)$が成立すると仮定する。任意に$(1)$をみたす $a,b,c$ をとる。このとき $a \neq b$ は明らか。$a < b$ の場合を考える。アルキメデス性より
\begin{equation*}
pa \le b < (p+1)a
\end{equation*}
をみたす $p\in \mathbb{N}_+$ がとれる。$pa=b$ と仮定すると、$(1)$に代入して $a+pa+c=pa+a$ より $(p+1)a+c=(p+1)a$ が導かれるから、【公理】5) と矛盾し、従って $pa < b$ である。すると【公理】6) より、
\begin{equation*}
pa+b' = b \ \land \ b' < a
\end{equation*}
をみたす $b'$ がとれる。$(1)$に代入して $(p+1)a+b'+c=pa+b'+a$ より、
\begin{equation} \tag{3}
a+b'+c=b'+a \ \land \ b' < a
\end{equation}
が成り立つ。$b < a$ の場合は $b'=b$ とすると$(3)$が成り立つから、いずれの場合も$(3)$をみたす $b'$ が存在する。
 この $b'$ に対し、アルキメデス性によって同様に
\begin{equation*}
qb' \le a < (q+1)b'
\end{equation*}
をみたす $q \in \mathbb{N}_+$ がとれる。$qb'=a$ と仮定すると、$(3)$に代入して同様に $(q+1)b'+c=(q+1)b'$ が導かれるから、【公理】5) と矛盾し、従って $qb' < a$ である。すると【公理】6) より、
\begin{equation*}
qb'+a' = a \ \land \ a' < b'
\end{equation*}
をみたす $a'$ がとれる。$(3)$に代入して $qb'+a'+b'+c=(q+1)b'+a'$ より、
\begin{equation} \tag{4}
a'+b'+c=b'+a' \ \land \ a' < b'
\end{equation}
が成り立つ。
 さて、この$(4)$と帰納法の仮定より $kc < a'$ であるから、
\begin{equation*}
a=qb'+a' > qa'+a' \ge 2a' > 2kc \ge (k+1)c
\end{equation*}
が成り立つ。従って $n=k+1$ のときにも$(2)$が成立する。
 (I)(II)より、数学的帰納法によって任意の $n \in \mathbb{N}_+$ に対し$(2)$が示され、証明は完了した。□

 証明の随所でアルキメデス性が強力に効いていることがわかります。アルキメデス性がなければ交換則の成り立たない(他の性質は成りたつ)空間を作ることが可能です。

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「ぼくのかんがえたさいきょうの実数論」発表レポート [数学]

 先日大阪で行われた「第6回関西日曜数学友の会」で、タイトルの5分間発表をしました。その内容をここで紹介します。
 なお、発表では証明はすべて省略しましたが、本記事の最後に証明集へのリンクを掲載しましたので、興味のある方はご覧ください。

20191102ぼくのかんがえたさいきょうの実数論.001.jpeg

 タイトルスライドです。本当は僕のオリジナルではなく、自分で考えたのは事実ですが、南雲道夫という数学者の方が戦前に既にこの内容で論文を出しておられたことを後から知りました。

20191102ぼくのかんがえたさいきょうの実数論.002.jpeg

 本発表の動機をつらつらと書いております。深く取らないでほしいです。

20191102ぼくのかんがえたさいきょうの実数論(ブログ用修正).003.jpeg

 実数とは本来「量」から考えられたものという立場にたって、「量」とはなんなのかということを数学的にとらえてみました。天秤棒で塩を量り売りするいにしえの塩売りだって、「量」のこういう性質を認識していたに違いありません(彼にとって量は商売の根幹ですから)。これを「正の量の公理系」として、このあとは数学の考察になります。
 なお、塩売りのマンガは僕のオリジナルです。自由に使って結構です。

20191102ぼくのかんがえたさいきょうの実数論.004.jpeg

 塩売りは量が「連続性」をもつなんて考えていなかったと思いますが、アルキメデス性は認識していたと思われます。アルキメデス性をもつ量の空間を理想的に拡大したら、それは「連続性」をもつ量の空間になります。ここがデデキントさんによる偉大な発見の部分です。

20191102ぼくのかんがえたさいきょうの実数論.005.jpeg

 量を「○倍する」という概念が実数である、という考え方をすると、量の空間上の自己準同型写像というアイデアに行き着きます。そこでこれを正の実数の定義とします。和、積、および順序は自然に定まります。

20191102ぼくのかんがえたさいきょうの実数論.006.jpeg

 自己準同型写像を正実数と定義すると、ここまではスルスルと面白いように導出されます。強調したいのは、積は写像の合成で定義しましたので、積の結合則は自明ですが交換則は決して自明には出てこない、ということです。

20191102ぼくのかんがえたさいきょうの実数論(ブログ用修正).007.jpeg

 スライドの上部に書かれた3つの定理を証明すると、正実数の残りの性質が導かれます。この3つの定理は意外と証明が面倒です。特に3つめの定理は、量と実数との本質的な関係を表したものになっています。
 正実数の性質がわかれば、それを元に実数全体を構成することは、半環から環を作るという一般的な手法で行えます。

20191102ぼくのかんがえたさいきょうの実数論.008.jpeg

 まとめのスライドです。実数の積の交換則が自明でないことを再度強調しました。また南雲さんのことにも最後に触れました。

 以上の発表内容に関わる一連の証明はここにPDFで載せてあります。きちんと書き出すと結構長いものになりました。

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