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「分母の有理化」を3乗根で行う [数学]

 高校数学で、平方根混じりの分数を「分母の有理化」することを習いました。
 例えば次のような計算です。
\[ \frac{1}{\sqrt{2}+1} = \frac{\sqrt{2} - 1}{(\sqrt{2}+1)(\sqrt{2} - 1)} = \frac{\sqrt{2} - 1}{2 - 1} = \sqrt{2} - 1 \]
 平方根混じりの分数が必ず「分母の有理化」が可能であることは、高校でちゃんと教わったかどうかは記憶にありませんが、僕自身は可能だと認識していて、面白く感じたことを覚えています。

 これを説明するために、上の例を少し抽象化します。$\theta = \sqrt{2}$ とおき、多項式 $f(x)$ を
\[ f(x) = x^2 - 2 \]
とすると、$f(\theta) = 0$ となります。そして有理係数の多項式 $g(x), h(x)$ で $g(\theta) \neq 0$ となるものをとり、$\theta$混じりの分数
\[ \frac{h(\theta)}{g(\theta)} \]
を考えると、これは多項式 $g(x), h(x)$ をどう取っても「分母の有理化」が可能になるのです。なぜなら、$g(\theta) \neq 0$ の条件より $g(x)$ は $f(x)$ を因数に持たず、また $f(x)$ は有理数体$\mathbb{Q}$上でこれ以上因数分解できない(既約)ので、$f(x)$ と $g(x)$ は互いに素、よって、
\[ f(x)p(x)+g(x)q(x) = 1 \tag{1} \]
となる有理係数多項式 $p(x), q(x)$ を取ることができて、$f(\theta) = 0$ を使うと
\[ \frac{h(\theta)}{g(\theta)} = \frac{h(\theta)q(\theta)}{g(\theta)q(\theta)} = \frac{h(\theta)q(\theta)}{1 - f(\theta)p(\theta)} = h(\theta)q(\theta) \tag{2} \]
となって$\theta$混じりの有理係数多項式に変形されます。これで「分母の有理化」ができたわけです。

 この抽象化をよく見ると、$\theta$はなにも平方根に限った話ではなく、有理係数多項式の根になる数(代数的数)ならば何でもよくて、3乗根でも何乗根でも、また「何乗根」で表せないようなもっと複雑な多項式の根でもいいわけです。つまり、代数的数$\theta$の(有理係数の)有理式の形で表される数は、必ず「分母の有理化」が可能ということになります。

 このような一般化をした場合は、$f(x)$ は$\theta$の$\mathbb{Q}$上の「最小多項式」をとります。つまり$\theta$を根に持つ有理係数多項式で既約かつモニック(最高次係数が1)な多項式です。例えば $\theta = \sqrt[3]{2}$(2の実3乗根)ならば $f(x) = x^3 - 2$ です。

 では、以下 $\theta = \sqrt[3]{2}$ と固定して、2の3乗根混じりの分数の「分母の有理化」を実際にやってみます。上の議論でこれが可能であることはわかりましたが、実際に計算するには平方根の場合のように簡単にはいきません。

 まず分母の $g(x)$ が1次式 $x+a$($a$は有理数)の場合は比較的簡単です。次のように「分母の有理化」ができます。面倒なので分子の $h(x)$ は1にしてしまいましょう。
\[ \frac{1}{\theta + a} = \frac{\theta^2 - a \theta + a^2}{(\theta + a)(\theta^2 - a \theta + a^2)} = \frac{\theta^2 - a \theta + a^2}{\theta^3 + a^3} = \frac{\theta^2 - a \theta + a^2}{2 + a^3} \]
高校でも習った3次の因数分解の公式を使って「分母の有理化」ができました。

 次に、$g(x)$ が2次式 $x^2+ax+b$($a,b$は有理数)の場合を考えます。残念ながらわかりやすい公式がないので、$(1)$をみたす $p(x), q(x)$ を愚直に求めることにします。ユークリッドの互除法を2段階用いてちょっと面倒な計算をして $p(x), q(x)$ を求め、$(2)$に当てはめて整理すると、次の結果になります。
\[ \frac{1}{\theta^2 + a \theta + b} = \frac{(a^2-b)\theta^2 + (2-ab)\theta +b^2-2a}{2a^3-6ab+b^3+4} \]
 具体的に $a=1, b=-1$ としてこれに当てはめると、
\[ \frac{1}{\theta^2 + \theta - 1} = \frac{2\theta^2 + 3\theta -1}{11} \]
と「分母の有理化」ができました。これが本当に成り立つことは、左辺の分母と右辺の分子を掛け算して $\theta^3 = 2$ を入れると $11$ になることで確認できます。

 これらの議論の一般化は、「体の拡大」という非常に奥深い内容に繋がっていて、とても面白いです。

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