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超フィルターを使った距離空間「全有界+完備 ⇔ コンパクト」の証明 [数学]

 だいぶ前ですが、超準解析について書いた記事の中で、距離空間における表題の有名な定理を超準モデルを使って証明しました。
 本記事では同じ定理を超準モデルではなく、超フィルターを使って証明してみます。超準モデルを使った証明と同じく、距離空間における「全有界」「完備」「コンパクト」のそれぞれの性質が、超フィルターを使った同値な条件で置き換えられることを証明することによって、目的の定理を証明することができます。超フィルターが何かということについては、この記事を参照してください。

 では、順に進めていきましょう。本記事全体を通して $(X,d)$ は距離空間とします($X$ は空でない集合、$d : X^2 \mapsto \mathbb{R}$ は距離関数を表します)。以下 $d$ を省略して「距離空間 $X$ 」ということとします。また、正実数の全体を $\mathbb{R}^+$ で表し、さらに $a \in X, \epsilon \in \mathbb{R}^+$ に対し、$a$ を中心とする半径 $\epsilon$ の開球を $U(a, \epsilon)$ で表します。

 まずは全有界性から。

【定理1】距離空間 $X$ が全有界であることと、
「$X$ 上の任意の超フィルター $\mathbf{F}$ に対して \[ \forall \epsilon \in \mathbb{R}^+ \, \exists a \in X \, (U(a, \epsilon) \in \mathbf{F} ) \tag{1} \] が成り立つ。」
ことは同値である。

(証明)$X$は全有界とし、任意に超フィルター $\mathbf{F}$ をとる。任意に正実数 $\epsilon$ をとると、有限個の$X$の点 $a_1, a_2, \cdots a_n$ が存在して、これらを中心とする半径 $\epsilon$ の開球で $X$ を覆うことができるから、
\[ X \subseteq U(a_1, \epsilon) \cup U(a_2, \epsilon) \cup \cdots \cup U(a_n, \epsilon) \]
が成り立つ。ここで $U(a_1, \epsilon), U(a_2, \epsilon), \cdots , U(a_n, \epsilon)$ のどれも $\mathbf{F}$ に属さないと仮定すると、$\mathbf{F}$ が超フィルターだから $X \setminus U(a_1, \epsilon), X \setminus U(a_2, \epsilon), \cdots , X \setminus U(a_n, \epsilon)$ はすべて $\mathbf{F}$ に属し、かつ
\begin{eqnarray*}
&&( X \setminus U(a_1, \epsilon) ) \cap ( X \setminus U(a_2, \epsilon) ) \cap \cdots \cap ( X \setminus U(a_n, \epsilon) )\\
&=& X \setminus ( U(a_1, \epsilon) \cup U(a_2, \epsilon) \cup \cdots \cup U(a_n, \epsilon) )\\
&=& \emptyset
\end{eqnarray*}
となるが、これはフィルター $\mathbf{F}$ が有限交叉性を持つことに矛盾する。従って仮定が誤りであり、$U(a_1, \epsilon), U(a_2, \epsilon), \cdots , U(a_n, \epsilon)$ のどれかが $\mathbf{F}$ に属するから、$(1)$ が成立する。
 逆に、$X$ 上の任意の超フィルター $\mathbf{F}$ に対して$(1)$が成立するものとする。$X$ が全有界でないと仮定すると、ある正実数 $\epsilon$ をとって、どのような $X$ の有限個の点をとってもそれらを中心とする半径 $\epsilon$ の開球で $X$ を覆うことができないようにすることができる。この $\epsilon$ に対し、有限個の半径 $\epsilon$ の開球(中心は任意の点)の和集合の補集合( $X$ からの差)の全体 $\mathbf{A}$ を考える。$\epsilon$ のとり方から明らかに $\mathbf{A}$ は有限交叉性を持つので、$\mathbf{A}$ を含む超フィルター $\mathbf{F}$ が存在する。$(1)$よりある $a \in X$ が存在して $U(a, \epsilon) \in \mathbf{F}$ となるが、一方で $\mathbf{F}$ の作り方より $X \setminus U(a, \epsilon) \in \mathbf{F}$ であるので、$\mathbf{F}$ がフィルターであることと矛盾する。従って $X$ は全有界である。□

 次に完備性に移ります。ここで $X$ 上のフィルター $\mathbf{F}$ が点 $x$ に収束するとは、$x$ の近傍が全て $\mathbf{F}$ に属することをいいます。単に $\mathbf{F}$ が収束するとは、ある点 $a$ に収束することです。距離空間の場合にはこれは次と同値です。
\[ \exists a \in X \, \forall \epsilon \in \mathbb{R}^+ \, (U(a, \epsilon) \in \mathbf{F} ) \tag{2} \]

【定理2】距離空間 $X$ が完備であることと、
「$X$ 上の任意の超フィルター $\mathbf{F}$ は、$(1)$が成り立つならば収束する。」すなわち
「$X$ 上の任意の超フィルター $\mathbf{F}$ に対して \[ \forall \epsilon \in \mathbb{R}^+ \, \exists a \in X \, (U(a, \epsilon) \in \mathbf{F} ) \to \exists a \in X \, \forall \epsilon \in \mathbb{R}^+ \, (U(a, \epsilon) \in \mathbf{F} ) \] が成り立つ」
ことは同値である。

(証明)$X$は完備とする。任意に$(1)$をみたす$X$ 上の超フィルター $\mathbf{F}$ をとると、$X$ の点列 $\{ a_n \}$ で
\[ \forall n \in \mathbb{N} \, ( n \ge 1 \to U(a_n, 1/n) \in \mathbf{F} ) \]
をみたすものがとれる。この点列と任意の $k \in \mathbb{N}, k \ge 1$ に対し、$m,n \ge k$ ならば $U(a_m, 1/m) \cap U(a_n, 1/n) \in \mathbf{F}$ より $U(a_m, 1/m) \cap U(a_n, 1/n) \ne \emptyset$ だから、ある $x \in U(a_m, 1/m) \cap U(a_n, 1/n)$ がとれて、
\[ d(a_m,a_n) \le d(a_m,x) + d(a_n,x) < 1/m+1/n \le 2/k \]
となるから、$\{ a_n \}$ はコーシー列であり、$X$ の完備性よりある点 $a$ に収束する。超フィルター $\mathbf{F}$ も同じ点に収束することを示す。任意に $\epsilon \in \mathbb{R}^+$ をとると、$d(a_n,a) < \epsilon /2 \land 1/n < \epsilon /2$ をみたす $n \in \mathbb{N}$ がとれて、任意の $x \in U(a_n, 1/n)$ に対し、
\[ d(x,a) \le d(x,a_n) + d(a_n,a) < 1/n + \epsilon /2 < \epsilon \]
であるから $U(a_n, 1/n) \subseteq U(a, \epsilon)$ であり、従って $U(a, \epsilon) \in \mathbf{F}$ であるから $\mathbf{F}$ は $a$ に収束する。
 逆に、$X$ 上の任意の超フィルター $\mathbf{F}$ は$(1)$が成り立つならば収束するものとする。任意に $X$ 上のコーシー列 $\{ a_n \}$ をとる。任意の $\epsilon \in \mathbb{R}^+$ に対し、ある $k \in \mathbb{N}$ がとれて
\[ m,n \in \mathbb{N} \land m,n \ge k \to d(a_m,a_n) < \epsilon \]
をみたすから、そのような $k$ の最小値を $k(\epsilon)$ とする。こう定めると
\[ n \in \mathbb{N} \land n \ge k(\epsilon) \to a_n \in U(a_{k(\epsilon)},\epsilon) \]
が成り立つ。有限個の $\epsilon_1 \ge \epsilon_2 \ge \cdots \ge \epsilon_m$ に対して $k(\epsilon_1) \le k(\epsilon_2) \le \cdots \le k(\epsilon_m)$ だから、
\[ a_{k(\epsilon_m)} \in U(a_{k(\epsilon_1)},\epsilon_1) \cap U(a_{k(\epsilon_2)},\epsilon_2) \cap \cdots \cap U(a_{k(\epsilon_m)},\epsilon_m) \]
であり、これより $X$ の部分集合の族 $\mathbf{A}$ を
\[ \mathbf{A} = \{ \, U(a_{k(\epsilon)}, \epsilon) \, \mid \, \epsilon \in \mathbb{R}^+ \, \} \]
と定めると、$\mathbf{A}$ は有限交叉性を持ち、よって $\mathbf{A}$ を含む超フィルター $\mathbf{F}$ が存在する。明らかにこの $\mathbf{F}$ は$(1)$をみたすから、仮定によって $\mathbf{F}$ はある点 $a$ に収束する。点列 $\{ a_n \}$ も同じ点 $a$ に収束することを示す。これが成り立たないと仮定すると、ある $\epsilon \in \mathbb{R}^+$ が存在して、$d(a_n,a) \ge \epsilon$ となるようないくらでも大きい $n \in \mathbb{N}$ がとれる。そこで $n \ge k(\epsilon /3) \land d(a_n,a) \ge \epsilon$ となる $n \in \mathbb{N}$ をとると、$d(a_n,a_{k(\epsilon /3)})
< \epsilon /3$ だから、
\[ d(a,a_{k(\epsilon /3)}) \ge d(a_n,a) - d(a_n,a_{k(\epsilon /3)}) > \epsilon - \epsilon /3 = 2 \epsilon /3 \]
であり、これより $U(a, \epsilon /3) \cap U(a_{k(\epsilon /3)}, \epsilon /3) = \emptyset$ が従う。しかし、$\mathbf{F}$ が $a$ に収束するから $U(a, \epsilon /3) \in \mathbf{F}$ であり、また $\mathbf{F}$ の作り方より $U(a_{k(\epsilon /3)}, \epsilon /3) \in \mathbf{F}$ であるから、これは $\mathbf{F}$ がフィルターであることと矛盾する。従って $\{ a_n \}$ は $a$ に収束するから、$X$ 上の任意のコーシー列は収束し、$X$ は完備である。□

(【定理2】の証明をよく見ると、$\mathbf{F}$ について超フィルターの性質が使われていません。ということは【定理2】の「超フィルター」をただの「フィルター」に置き換えても成立するということになりますが、話の流れがややこしくなるのでこのままにしておきます。)

 続いてコンパクト性に移ります。これは距離空間にとどまらず一般の位相空間で成立する定理ですが、証明は全有界性についての【定理1】と非常によく似ています。

【定理3】位相空間 $X$ がコンパクトであることと、
「$X$ 上の任意の超フィルターは収束する」
ことは同値である。

(証明)$X$ はコンパクトとする。$X$ 上の超フィルターでどの点にも収束しないものが存在すると仮定し、$\mathbf{F}$ がそのような超フィルターとする。任意の $a \in X$ に対し、$a$ の開近傍 $U(a)$ で $U(a) \notin \mathbf{F}$ をみたすようなものがとれる。すべての $a \in X$ に対する $U(a)$ の全体は $X$ の開被覆になるから、$X$ のコンパクト性よりそのうちの有限個 $U(a_1), U(a_2), \cdots , U(a_n)$ によって
\[ X \subseteq U(a_1) \cup U(a_2) \cup \cdots \cup U(a_n) \]
が成り立つ。$U(a_1), U(a_2), \cdots , U(a_n)$ はどれも $\mathbf{F}$ に属さないから、【定理1】の証明の前半と同様の考察によって矛盾が導かれる。従って $X$ 上の任意の超フィルターはある点に収束する。
 逆に、$X$ 上の任意の超フィルターは収束するものとする。$X$ がコンパクトでないと仮定すると、ある $X$ の開被覆 $\mathbf{S}$ で、どの有限個をとっても $X$ の被覆にならないものが存在する。有限個の $\mathbf{S}$ の要素の和集合の補集合の全体 $\mathbf{A}$ を考える。$\mathbf{S}$ の性質から明らかに $\mathbf{A}$ は有限交叉性を持つので、$\mathbf{A}$ を含む超フィルター $\mathbf{F}$ が存在する。$\mathbf{F}$ はある $a \in X$ に収束するから、$a \in A \in \mathbf{S}$ をみたす $A$ が存在し、$A$ は開集合だから $A \in \mathbf{F}$ となるが、一方で $\mathbf{F}$ の作り方より $X \setminus A \in \mathbf{F}$ であるので、$\mathbf{F}$ がフィルターであることと矛盾する。従って $X$ はコンパクトである。□

 さて、【定理1】から【定理3】を証明してしまうと、本記事の目的である次の定理はほとんど自明になってしまいました。

【定理4】距離空間においては、全有界かつ完備であることと、コンパクトであることは同値である。

(証明)$X$ が全有界かつ完備ならば、$X$ 上の任意の超フィルターは、【定理1】より$(1)$をみたし、かつ【定理2】より「$(1)$が成り立つならば収束する」をみたすから、収束する。従って【定理3】より $X$ はコンパクトである。
 逆に $X$ がコンパクトならば、$X$ 上の任意の超フィルターは、【定理3】より収束するから$(2)$を満たし、$(2)$より$(1)$は明らかに従うので【定理1】より $X$ は全有界である。さらに「$(1)$が成り立つならば収束する」も自明に成り立つから、【定理2】より $X$ は完備である。□

 以上で、超フィルターを使ってタイトルの結果を証明することができました。流れとしてはこの記事で紹介した超準モデルを使った証明の類似になっています。ただやはり超準モデルのシンプルな論理式と比べると、フィルターそのものの複雑さも相まってちょっとモッチャリした感は否めません(個人の感想です)。

(続く)(前記事)

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