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続・超フィルターによる全順序集合の拡大 [数学]

 昨年の12月に書いた「超フィルターによる全順序集合の拡大」の記事の続きです。

 全順序集合 $X$ に対し、$X$ 上の超フィルター間に擬順序関係を定め、それを使って全順序集合 $\widehat{X}$ を構成し、$X$ を $\widehat{X}$ に埋め込みました。
 この $\widehat{X}$ がどんな構造になっているかを、もう少しきちんと調べてみます。

 まず、元の $X$ を2個の部分に「切断」します。具体的には、$X$ の2個の部分集合の組 $X_1, X_2$ で、次の性質を持つものを考えます。
\begin{equation*}
X_1 \neq \emptyset \ \land \ X_2 \neq \emptyset \ \land \ X_1 \cup X_2 = X \ \land \ X_1 < X_2
\end{equation*}
ここで最後の式は $\forall x_1 \in X_1 \, \forall x_2 \in X_2 \, (x_1 < x_2)$ の略記です。この条件をみたす組 $(X_1, X_2)$ を $X$ の切断と呼ぶことにします(切断が存在すれば、当然 $X$ は2個以上の元を持ちますので、以下そのことを仮定します)。
 $X$ が有理数体 $\mathbb{Q}$ のときは、切断がそれぞれ唯一の実数に対応するという有名な事実がありました。しかし超フィルターから構成した今回の $\widehat{X}$ では、$X_1$ の上限と $X_2$ の下限に対応するそれぞれ別の $\widehat{X}$ の元が存在するのです。

【定理】$X$ の切断 $(X_1, X_2)$ に対して、 \begin{equation*} \forall x \in X_1 \, (x \le \alpha) \ \land \ \alpha < \beta \ \land \ \forall x \in X_2 \, (\beta \le x) \end{equation*} となるような $\widehat{X}$ の2個の元 $\alpha, \beta$ がそれぞれ唯一存在する。

(証明)任意の $a \in X_1$ に対して、
\begin{equation*}
I_a = \{ \, x \in X_1 \, \mid \, a \le x \, \}
\end{equation*}
とおくと、$I_a$ は $X$ の区間であり、これら $I_a$ の全体からなる集合族は明らかに有限交差性を持つので、それらを含む超フィルター $\mathbf{A}$ が作れ、$\alpha = [\mathbf{A}]$ が $\widehat{X}$ の元として定まる。同様に、任意の $b \in X_2$ に対して、
\begin{equation*}
I_b = \{ \, x \in X_2 \, \mid \, x \le b \, \}
\end{equation*}
とおくと、これらの区間 $I_b$ の全体を含む超フィルター $\mathbf{B}$ が作れ、$\beta = [\mathbf{B}]$ が $\widehat{X}$ の元として定まる。作り方から明らかに $\lnot(\mathbf{B} \preceq \mathbf{A})$ なので $\alpha < \beta$ である。ある $a \in X_1$ が $\alpha < a$ となったと仮定すると、ある $A \in \mathbf{A}$ が $A < \{ a \}$ をみたすが、これから $A \cap I_a = \emptyset$ が従うから $\mathbf{A}$ のフィルターの条件に反し矛盾であり、従って $\forall x \in X_1 \, (x \le \alpha)$ が成立する。$\forall x \in X_2 \, (\beta \le x)$ も同様に示される。
 $\alpha, \beta$ がそれぞれ唯一に定まることを示す。このためには、
\begin{equation*}
\forall x \in X_1 \, (x \le \alpha) \land \alpha < \gamma < \beta \land \forall x \in X_2 \, (\beta \le x)
\end{equation*}
をみたす $\alpha, \beta, \gamma \in \widehat{X}$ が存在しえないことを示せばよい(唯一に定まらなければ必ずこのような順序関係になる $\widehat{X}$ の3個の元が存在する)。そこでこれらが存在すると仮定して矛盾を導く。$\alpha = [\mathbf{A}], \beta = [\mathbf{B}], \gamma = [\mathbf{C}]$ とすると、$\alpha < \gamma < \beta$ より、
\begin{equation*}
A < C_1\ \land \ C_2 < B
\end{equation*}
をみたす $A \in \mathbf{A}, C_1, C_2 \in \mathbf{C}, B \in \mathbf{B}$ が存在する。$\mathbf{C}$ のフィルターの条件より $c \in C_1 \cap C_2$ となる $c \in X$ が存在し、
\begin{equation*}
A < \{ c \} < B
\end{equation*}
が成り立つが、$c$ で生成される $X$ 上の単項フィルター $\uparrow c$ によって $\widehat{X}$ 上で $c = [ \uparrow c ]$ とみなされるから、$\alpha < c < \beta$ が成り立ち、$c \in X_1$ としても $c \in X_2$ としても矛盾である。従って $\alpha, \beta$ は唯一に定まる。□

 逆に、任意に $\widehat{X}$ の元 $\gamma$ を取ると、それは
 ① ある $X$ の切断の境界に位置し、切断の下側の上限か、または上側の下限となる。
 ② 全ての $X$ の元より大きい。
 ③ 全ての $X$ の元より小さい。
のどれかになります。そして、②をみたす $\widehat{X}$ の元は、任意の $a \in X$ に対して、
\begin{equation*}
I_a = \{ \, x \in X \, \mid \, a \le x \, \}
\end{equation*}
で定まる $X$ の区間 $I_a$ の全体を含む超フィルターから構成できて、同様に③をみたす $\widehat{X}$ の元は、任意の $b \in X$ に対して、
\begin{equation*}
I_b = \{ \, x \in X \, \mid \, x \le b \, \}
\end{equation*}
で定まる $X$ の区間 $I_b$ の全体を含む超フィルターから構成できて、それぞれ唯一に定まります。

 以上で全順序集合 $X$ から超フィルターによって構成された $\widehat{X}$ の構造が明らかになりました。また、前回で証明を省略した「 $\widehat{X}$ は順序完備である」という事実についても、$\widehat{X}$ の任意の切断に対してそれに対応する $X$ の切断を考えて【定理】を適用することにより、切断の境界に位置する $\widehat{X}$ の元が高々2個存在することがわかるので、これで順序完備であることが証明できました。

 これ、何に使えるんでしょうか?まだよくわかりません。

(続く)(前記事)

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